恋なんてしないと決めていたのに、冷徹御曹司に囲われ溺愛されました
 運転手にそう告げ、すぐに阿佐ヶ谷の美鈴のアパートに向かった。
『芹沢さん、なにかあったのか?』
 拓真に聞かれたが、『ちょっとね』と言葉を濁す。
 歩くんが俺に連絡してくるなんて、美鈴は余程ひどい状態なのだろう。
 ショートメールの番号に電話をかけるが、歩くんも美鈴も出ない。
 アパートに駆けつけてみれば、玄関先で美鈴と四十代くらいの金髪の柄の悪そうな男がなにやら揉めていてハラハラした。
 すぐに車を降りてアパートに行くと、男が美鈴と歩くんを殴ろうとしていて、慌てて男の腕を掴んで止める。
『女と子供に暴力を振るうなんて最低だな』
 弱い者に手を上げるなんて許せなかった。
 男は俺に怯んで萎縮した様子で言い訳する。
『い、痛てて。そ、その女が母親の借金を返さないのが悪い』
『母親の借金ね。だったら当然借用書はあるんだろうな?』
 冷ややかに問うと、男は怯えながら答えた。
『いえ……あの……今日は持って……ません』
 声は尻すぼみになっているし、目も泳いでいる。
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