人から聞いた話 パート2

悲鳴の話


 皆さんは変態さんに出会ったことはありますか?
 アニメやマンガ、ドラマで見るテンプレのような変態さんです。
 所謂、露出魔ですね。

 1970年代ぐらいの話だと思うのですが。
 まだ僕の母が20代前半、仕事帰りに駅から自宅まで歩いていると。

 当時は今ほど、道路は舗装されておらず、街灯も少なく、夕方でも真っ黒だったそうで。
 一人の女性が夜道を歩くのは、恐怖を覚えるそうです。

 特に電柱や曲がり角らへんが一番ビクビクするらしく。
 お袋が一人歩いていると……。
 スッと人影が地面に見えたと思った瞬間。

「うわあっ!」

 と中年ぐらいの男がトレンチコート姿で出現します。
 何事かと思ったお袋は固まって萎縮しました。

 その驚いた顔を見て、男はコートをバッと開きます。
 中はなにも着ておらず、毛むくじゃらの裸体、そして黒いアレが……。

「きゃあああ!」

 お袋がそう悲鳴をあげると、にやぁ~っと薄気味悪く笑います。
 満足したのか、サッーと走り去るのです。
 この時、フェミニストのお袋は、カチンときたそうです。

 知らないおじさんの汚いモノを見ただけで、悲鳴をあげた自分に。
 そして、咄嗟におじさんの股間を蹴り上げることができなかった自分に。

 だから、僕は幼いころから、お袋にこう言われて育ちました。
「いい? 変態はこの世に必ずいるのよ! いつか、あんたにパートナーが出来たとして、変態が股間を出したらすぐに蹴り上げなさい!」
「躊躇はいらない! あいつらは女の悲鳴が大好物なんだから!」
 ときつく言われました。

 僕は現実でそういう場面に出会うことは、なかなか無いよなぁと思っていました。
 現在の妻である彼女にも「お袋が遭遇した変態に会ったことあるか?」なんて質問ましたが。
「ないない。いても私は絶対悲鳴なんてあげないよ」
 と自信があったそうです。

 そして、結婚してまだ間もない頃、新婚生活が始まって一週間ほどです。
 僕は奥さんと初めての年末を過ごすことになり。
 北九州に住むおばあちゃんが遊びに来てほしいと言われたので。
 仕事あがりの奥さんを職場まで迎えに行き、駅のホームで小倉行きの電車を二人で仲良く待っていました。
 すると、反対方向のホームから、なにやら変な音が聞こえて。

 僕が振り返ると、酔っぱらったハゲのおじさんが、モノを出して、立ちションをされていました。
 昭和時代なら、まだ見たことがありましたが、久しぶりに見た光景に僕は驚き、
「あっ」
 と声が漏れてしまいます。

 隣りにいた奥さんがそれに気がつき、
「え、どうしたの?」
 なんて言うので、僕は
「見ない方がいい」
 と必死に止めたのですが。
「気になるじゃん」
 そう言って、見てしまいました。

 真っ黒なアレを。

「きゃああああ!」

 付き合って数年の間柄ですが、今まで聞いたことないぐらいの大きな悲鳴でした。
 妻はツンデレというか、あんまり感情を出さないタイプでして。
 そういう女の子らしいところをなかなか見せない人です。

 奥さんの悲鳴を聞いた反対側のおじさんがそれに気がついて。
「ヘッヘヘヘ。お姉ちゃん見ちゃったんだ? ヘヘヘ」
 なぜか自身の股間を見られたのに、喜んでいました。

 そして、おじさんは列車に戻り、博多側へと消えていきました。

 この時、妻はブチギレていました。
「ああ~ ムカつく! あんな汚いもんを見せられて、悲鳴をあげた自分が!」
 僕が「いきなりだったから、仕方ないよ」と落ち着くように言いましたが、妻の怒りは治まりません。

 おばあちゃん家に着いて、この話をすると。
「なんだって!? 妻子ちゃんにそんな汚いもん見せて笑ってたの?」
 とおばあちゃんがブチギレ。
 また姑となったお袋が隣りで、大激怒。
「幸太郎! あんた、そいつの股間を蹴り上げれば良かったじゃない!」
 と叱られ、
 僕は
「いや、反対側のホームだったし、無理だったよ……」
 そう言い訳をすると。

 お袋はブツブツ言いながらキッチンで、年越しそばを作りながら。
「あ~ そういう奴、本当に腹立つね! 一度、股間を蹴り上げないとわからないのよ!」
 と言っていました。

 汚物を見せられ、悲鳴を上げてしまうのが、女性の皆さん、共通で憤りを隠せないのかもしれません。

< 14 / 17 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop