月下の恋人…missing



『まゆ。今日も光彦君来てるけど。いいの?』




ママの優しい声が闇に響く。




「うん。いいの…。」



私は上手に笑えているのか心配になって、うつ向いた。




『ちょっとママ、下の自販行って来るけど。すぐ帰って来るから。』




―――バタン…




遠ざかる足音と共に静かな空間に耳を澄ます。








「光にぃ…逢いたいよぉ」




小さく呟いた声は誰にも届かない。



私の心にも届かないまま、静寂に飲み込まれて小さく笑った。




どうかあの夏のままで――



そう願いながらゆっくりと顔を上げると、頬を撫でる優しい風に瞳を閉じて光にぃを想う。




(どうして……)







暗闇に問いかけて、儚い記憶を紡いで心のページをめくった。





< 2 / 247 >

この作品をシェア

pagetop