お嬢様は完璧執事と恋したい

 げんなりとした気持ちがうっかり顔に出ないよう細心の注意を払って、澪もよそゆきの笑みを浮かべる。

 父に紹介された神野という男性は、専務取締役というポストに就いているだけあって、落ち着いた大人の雰囲気を纏っていた。ダークブルーのスーツにピンストライプのワイシャツとネイビーのネクタイを合わせ、ヘアワックスで前髪を流すように固めた姿は爽やかで好印象だ。

「澪、神野くんはすごく優秀なんだぞ。高校で渡米して、大学院も向こうを出ているんだ」

 父が口にする情報に心の中で『ふぅん』と頷く。アメリカにも色々な高校や大学があるはずだが、彼は〝神野〟不動産ホールディングスの名字を名乗り、専務取締役に就いているというのだ。さぞ有名な大学や大学院を卒業して、確約されたエリート街道をひた走っているに違いない。

 有名企業の重役が集うパーティでは様々な情報が飛び交い、その中で人脈が形成されていくのが常である。紹介された相手が、父にとってはライバルにも味方にもなりうる企業の御曹司であると知った澪は、今日も自分が政略の舞台に引きずり上げられたことを悟る。

「今は三十三歳なんだろう? 神野君のように優秀な若手がいるんだ、神野不動産の未来は明るいな」
「邑井社長、僕は専務就任からほんの一年ですよ。まだまだ勉強中の身ですから」
< 7 / 61 >

この作品をシェア

pagetop