叶わぬ恋ほど忘れ難い
「いずみん、わたしが店長に無理を言って開けてもらったし、ピアスひとつに大袈裟だよ」
「なんで店長に頼むのよ」
「軟骨だから力がいるだろうし、うちの店でピアスをつけていて、なおかつ誰かにピアスホールを開けた経験があったのは店長だけだった」
「うちの店に限定しなくても、男友だちいるでしょう?」
「ピアスを開けてくれるような男友だちはいないの。いずみんが開けてくれるなら、次はいずみんにお願いするけど」
言うや否やいずみんは「無理!」と叫んで顔をしかめ、店長に向き直って「次もお願いします!」と頭を下げたのだった。
うちのスタッフ、共通の男友だち、そしていずみん自身がピアッサーをわたしの耳に宛がった様子を想像した結果、店長に託すのが一番良いと判断したのだろう。
頼まれた店長は、先日のトラウマか苦笑して「次があったらね」と答えた。
次がないことを、わたしも願っている。
だってわたしのピアスは、恋でもどかしい想いをするたびに増えている、ある種の自傷行為なのではないかと思っているのだから。
恋の傷を、別の傷を作って紛らそうとしているのだから。
その自傷行為に巻き込んでしまったことを詫びる気持ちで目礼すると、彼は何も言わずに大きく頷いた。