叶わぬ恋ほど忘れ難い

 と。ここまで二人とも、一瞬の空白もなく話し続けていたけれど、突然店長が言葉を切り、穏やかな表情でじっとこちらを見つめてくるから。
 わたしも何も言えなくなって、ただ視線を合わせた。

「きみは、良い妻で、良い母親になると思うよ」

 でも彼の口から紡がれた言葉は、嬉しいものではなかった。

 今の時点では、結婚は考えられない。心に本気の恋を抱えたままでは、夫も子どもも不幸にするだけだ。
 だからどれだけ理想を並べても、全て無意味なのだ。

 それを悟られないよう、当たり障りのない言葉を探していたら、のしのしという足音が近付いて来た。

 すぐに森のくまさん――もとい武田さんがスタッフルームに入って来た。大きなコンビニ袋をぶら下げて。

 罰ゲームという那のお使いから帰還した先輩を労いながら、内心ほっとしていた。
 当たり障りのない言葉を吐きながら、笑える自信がなかったのだ。あれほどまでに楽しい会話ができる人と、わたしは、夫婦になることができないから。
 きっと不満の表情をしてしまうだろう。だって実際、不満しかないのだから。

 武田さんが買って来てくれたおにぎりやサンドウィッチ、飲み物やお菓子を長机に並べながら、ちらと店長を見遣ると、彼は穏やかな表情のままデスクに頬杖をついて、天井を見つめていた。


< 47 / 47 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

すきとおるし
真崎優/著

総文字数/17,307

恋愛(純愛)21ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
わたしの時間は二年前から止まったまま。わたしの身体は二十七歳になったというのに、心は二十五歳のあの日のままだ。 実感のない、感情のない死が、これほどまでに大きいものだとは。 死というものが、これほどまでに透き通ったものだとは……。
立ち止まって、振り向いて
真崎優/著

総文字数/10,423

恋愛(ラブコメ)9ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
悲しいくらいにわたしを異性として意識していないあの人は、わたしが今夜先輩の部屋にお邪魔したと言ったら、どういう反応をするだろうか。 先輩の部屋を訪ねた理由を「立ち止まって振り向きたかったからだ」と話したら、どう返すだろうか。 きっと大笑いは見られない。 恐らくいつも通りニュートラルな様子のまま「おまえはいつも変なことをするし、変なことを言うね」と、呆れた様子で言うだろう。
添い寝インセンティブ
真崎優/著

総文字数/3,548

恋愛(ラブコメ)4ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
彼は、先程までの仏のような笑顔を、悪魔のような不敵な笑みに変えて「添い寝代、高いよ?」と言ったのだった。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop