貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
私を諭すように、急にまじめ腐った顔をしていっちゃんはそう言う。そんないっちゃんに、私は素朴な疑問をぶつけてみた。

「じゃあ……いっちゃんにも狼経験あるんだ」

エレベーターの前で私に背を向け上のボタンを押しているその背中が大きく揺れると、恐る恐るいっちゃんは振り返る。

「は……い?」

図星だったのかな?

いっちゃんは決まり悪そうに私から視線を逸らしている。

「いいのいいの!いっちゃんだって狼になることくらいあるよね?」

私が笑いながらいっちゃんにそう言うと、「与織子……。俺はそんなふしだらな妹に育てた覚えはないぞ……」と溜め息を吐きながら両肩に手をガシッと乗せられた。

私、いっちゃんに育てられた覚えはないんだけどな?

そんなことを思いながら私はいっちゃんを見上げて口を開く。

「なんで、狼だとふしだらなの?」

繋がりが見えなくて、私は単純に聞いてみたくなった。大人なんだから、キスの1回や2回、したことあるだろうに……。

そんな私に、いっちゃんは「へ?」と家族にしか見せないだろう間抜けな顔をして見せていた。
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