島津くんしっかりしてください
唇が震えて、本能が、この場所を。


この時間を待っていた。








「……っぅ、ふ……」






うまく、言葉が出てこない。






目にじわりと涙がたまっていくのを自覚して、手で目を押さえた。















「ただいま……ママ……」






脳裏に浮かぶのは、いつだってママの笑顔だ。






ママの部屋に入っただけ。






たった一歩、されど一歩。






それが私の心臓を揺さぶって、痛いくらいに波立っている。









しばらく私はそこから動けないでいて。






落ち着いたのは、泣き疲れて体力がなくなった頃だった。






……頭、痛い。






頭が、霧がかったようにぼんやりとしていて、何も考えられなくて。






ただただママのぬくもりに浸っていた。






私には、こんなことをする資格なんて、ないのに。






ほっと、熱い息を吐いて、ふわふわと立ち上がる。






……私は、どうすれば。






その時、ガチャリと一階から物音がして。






きゅっと、お腹の下あたりが悲鳴を上げた。






嫌な、予感。






こういうのは、大抵当たる。






あたって、しまう。






震える足で、ゆっくりと歩みを進める。






階段も、どこか心細くて、手すりを掴んで、一歩ずつ。






一階に降りて、ゆっくりと顔を上げる、と。






「っ……!」






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