クールな幼なじみ(将来の)旦那様は、私にだけ特別甘いようです。
『そう?俺は別に疲れてないよ』


そうやって、嘘をついた。

美都が心配そうな顔をするのを見たくなかったからだ。


『嘘だよ……?無理してる』


美都は、なにもかも見透かしたようにそう言う。


俺は、感情が劣っていて……いつも無表情で、冷徹だとか無慈悲だとか言われていた。


だけれど、美都だけはいつも俺の気持ちを読み取ってくれるようだった。


……ただ一つ。

美都は、俺とは違って1人ではなかったんだ。


小さい頃は特に、久宝家の跡継ぎとして誘拐なんてあってはいけなく、ほぼ屋敷に閉じ込められているに等しかった。


美都がいれば十分だった。

だけど、どんどん時が経つにつれて、美都が離れて行くようだった。別の誰かに、取られてしまいそうで。


久宝家の長男という鎖のついた俺は、美都に手を伸ばしても届かなかった。


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