全てを失っても幸せと思える、そんな恋をした。 ~全部をかえた絶世の妻は、侯爵から甘やかされる~

彼の気持ちを確信していたはずの彼女は、全てを受け入れた②

 震える程の緊張を抱え、己の願いを伝えるまで、冴えわたっていたアベリアの思考。
 デルフィーが受け入れてくれたことで、彼女の緊張はやっと解けていった。
 それと同時にやってきたワインの効果。
 華奢な体の彼女には、多すぎたワイン。
 それは、いつも冷静な彼女を、激しく淫らに乱れさせた。
 彼が、一度も見たことが無い、欲望のままの彼女。
 そして、彼女は彼の熱いものを欲しがった。
 躊躇った彼だけど、何度も激しく求める彼女に抗える訳もなく、彼の欲望は彼女の中へ全て吐き出された。

 喜び、不安、恐怖......。アベリアの感情はぐちゃぐちゃだった。
 でも、デルフィーの熱を受け入れたことで、きっと大丈夫だと自信が生まれていた。

 彼も自分と同じ気持ちで、これから伝えることも、絶対に受け入れてもらえると。
 
 これまでの人生で一番幸せを感じた時間。それが、もっと続いて欲しいと、心の底から願ったアベリア。

「デルフィーと一緒にいられるなら……、他には何もいらない。2人で、この侯爵家を出て一緒に暮らしましょう。あなたと並ぶ幸せを知ってしまったから、もう離れるなんてもう考えられない。私は、あなたと共に生きて行ける未来を手に入れたいから……。それ以上に欲しいものは何もないの」

 本当はデルフィーもアべリアの気持ちに応えたかったし、応えるつもりだった。
 そのつもりがなければ、彼女の事を抱ける訳がなかったから。
 だけど、アべリアが口にした真意に、確信が持てなかったデルフィー。

 今日やってきた侯爵への当てつけなのか。
 初めての快楽に酔ったのか。
 飲み過ぎたワインに酔っているのか……。
 デルフィーは、彼女が全ての酔いから醒めた翌朝、もう一度、彼女の気持ちを確認したかった。
                                                          
「その気持ちが大変嬉しく、私も同じ気持ちです。でも今は、お応え出来ません」
 アベリアは、彼の気持ちをその言葉通りに受け取って、静かに微笑んで頷いた。

 初めから、1度だけしかこの気持ちを伝えるつもりは無かったから。

 彼女にとっては、今日だけ許される我がままだった。彼女の覚悟は、この時に決まった。
 それでもアベリアは、彼の出した応えに、少しの不満も抱かず納得していた。
 愛する人に苦労はさせたくなかったし、彼がこれまで、この領地で成し得て来た事も、道半ばであることを知っていたから。
 
 この夜、それまでゆっくりと動いていた2人の歯車は、止まってしまった。
                                                                                                                      
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