初恋の味は苦い
「うそだよ、なにその顔」
「いや、そんなに仕事大変なんだなと思って」
「大変ですよー、営業さんが次々面倒な仕事もらってくるから」
「なんて?」
「営業さんが次々面倒な仕事もらってくるから」
「うわ、そんなしっかり繰り返し言わなくても。会社の利益に貢献してるのうちなんだから」
「はいはい、超格安で仕事貰ってくるもんね」
「それ、私に言うことじゃなくない?担当に直接言ってください、大体そんな格安が嫌ならもっと他にいい企業あったでしょ」
「ですよねー」
「なんでうちなの」
「転職サイト登録してたら加賀さんからスカウト来たから」
「優希?そっか、優希がスカウトしたのか」
「猛烈アプローチだったね、是非!!!みたいな圧がすごくて」

話しているとあっという間に会社の前に着いた。ダイマツ精機株式会社。道路に面したガラス張り、堂々とした面持ち。東京に支部を持つ、この地域では相当の大手。

少しキュッと緊張感が走る。

自動ドアが開いたその時、祥慈が思い出したように口を開いた。

「そういえば俺、この間彼女と別れた」

私が立ち止まってしまったせいで閉まれなくなった自動ドア。
祥慈が異変に気付いて振り向き、少し強引に私の腕を引いた。

「熱風が入っちゃうじゃん」

そう呟いて、また颯爽と前を行く。

あ、だめだ。

これはだめだ。

「何やってんの、エレベーター来るよ」

エレベーターホールから祥慈が私を呼ぶ声がした。

私はただフラフラと声のする方に歩くだけだった。

祥慈が彼女と別れた・・・?
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