初恋の味は苦い
たぶん、向こうで笑いながら頷いてるんだろうか、少し間が空いた。
私は座れるところを探し、なんとか花が抜かれた状態の花壇の縁に腰を下ろす。

「遊びにきてよ」

ニヤニヤとした祥慈の笑みが伝わるような声。

「本気で言ってますか」
「本気、本気、まじまじ」
「軽い」

私は真っ暗な空に笑う。

「りっちゃんに会いたい」
「それはただ女なら誰でもいいってわけじゃ」
「分かった、分かった、俺が間違ってた。俺がそっち行くから会おう」

「どう」と言って笑う。何がどう、だ。

「今りっちゃんに会いたいんだよね」

また調子のいいこと。

「どうしよっかなあ」

私はどうしようもなく、笑みが溢れる。
そう、都合の良い女なんだ。
誤魔化しようのないくらい喜んでいる私がいる。

「りっちゃんの彼氏に俺がなる」

車が行き交う中で、僅かに聞こえた。

「え?」
「って言うのを直接言いたくて会いたかったんだけど」
「今なんて言った?」
「りっちゃんの彼氏に俺がなってもいいですか」
「また?」
「また」

突然の展開に頭が上手く回らない。誰かに聞かれてしまったんじゃないかと何故か左右を気にしてしまう。

みんな誰も気にすることなく、増してや私がここで告白されてることなど気付く人はいるわけもなく、通り過ぎていく。

「じゃあ」と私は静かに口を開いた。

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