不倫ごっこしてみませんか?―なぜあなたも好きになってはいけないの?

第11話 逢瀬(4)直美の友人の不倫相談と新しい試み

9月10日(金)ようやく9月に入ったが、まだまだ暑い日が続いている。「暑さ寒さも彼岸まで」の秋分の日が待ち遠しい。ホテルに入ると冷房が効いて気持ちがいい。チェックインをしている間に汗が引いていく。あれからすぐに2か月がたっていた。

まだ、7時を過ぎたばかりだ。部屋に入って一息ついてから、メールで連絡を入れる。[1256無事到着]。

いつもならすぐに部屋の電話へ連絡してくるが、今日はしばらくしてから返信メールが入った。[用事が入りましたので到着が遅れます]。

用事ってなんだろう? まあ、今の僕にとってはその用事が何であっても構わない。彼女のプライベートな問題だ。例えその用事が男性と会うことだって嫉妬することもない。この後会っても僕から聞くこともしない。妙な自信があるのかもしれない。

シャワーを浴びて一汗流すことにしよう。これまでは着いたらすぐに彼女の部屋に押しかけていた。

シャワーを浴びてから買ってきたレモンサワーを飲んで一息ついた。テレビをつけてニュースを見る。

ドアをノックする音で目が覚めた。眠っていたみたいだ。すぐに小さな覗き窓からドアの外を確かめると直美が立っていた。すぐにドアを開けて中に入れる。

「遅れてごめんなさい。急にお友達と会うことになって、二人で食事をしていました」

時計を見ると9時を回っていた。そういえば、彼女が僕の部屋に来たのは初めてだった。

「僕も結構遅くなることがあるから気にしないで。今日は僕の部屋に来てくれたんだ」

「いつも私の部屋に来てもらっているから。でも部屋のつくりは同じだから代り映えはしないですね」

すぐに抱き合ってキスを交わす。お互いの気持ちが治まるまで抱き合っている。

「ごめんなさい。汗をかいているので、シャワーを浴びさせて下さい」

「ゆっくり使って」

直美はバスルームへ入っていった。チェックインする前に調達して冷やしておいた飲み物をテーブルに並べておいた。

直美はバスタオルを身体に巻いて浴室から出てきた。そしてベッドに腰かけている僕のすぐそばに座った。このまえ直美が飲んでいたのと同じ缶のレモンサワーを手渡した。それを直美はゆっくりおいしそうに飲んだ。喉を潤すとすぐに抱きついてきた。それに応えるように愛し始める。

◆ ◆ ◆
喉が渇いたので目が覚めた。直美はぐっすり眠っている。

ずいぶん何回も昇り詰めていた。凄い凄いと何回も押し殺した声で僕に伝えてきた。また、手を握ったり、腕をつかんだり、腰を押し付けてきたり、背中に腕を回してしがみついたりして、それを伝えてきた。

それに応えるかのように僕は集中し没頭した。最後は直美が腰を強く押し付けてきたので、足を絡めてより強く押し付けるようにした。二人が一体となったとこれまでで最も強く感じることができた瞬間だった。快感が身体を突き抜けていった。そして全身から力が抜けた。

ここへ来る途中、新幹線の中で直美のために新しいシミュレーションを考えてきた。今はネットで何でも調べられるし、映像でも見られる。初めて見つけた体位を2、3新たに加えてみたが、実際の場面を想像して順序の入れ替えをして何回か修正をした。これが結構楽しいことが分かった。時間が経つのが早くて、金沢へはすぐに着いた。

直美が気に入ってくれてよかった。もう一度新しいシミュレーションと彼女の反応を思い出している。僕は飲み物を取りに起き上がった。

「私にも何か冷たいものを持ってきてください」

「起こしてしまったね。ぐっすり眠っていたのに」

直美はミネラルウォーターを受け取ると渇いた喉を潤した。満ち足りた表情をしている。

「ありがとう。すごくよかった。今までで一番良かった」

「考えてきたかいがあってよかった」

「やっぱり考えてきてくれているのね。ありがとう。理系の男子は何でもシステマティックに考えるのね」

「そうかな? でもテクニックにこだわるところはあるかな」

「ところで、友人から不倫の相談を受けたの。よかったらあなたの考えというか、意見を聞かせてもらえないかな?」

「普通は友人にでもそういう相談はしないものだけどね。話が漏れやすい。僕は口外しないけど大丈夫なのか?」

「地元の古くからの友人で、幼馴染といってもよい間柄だし、それに私はもう地元を離れてほかの友人と接触する機会も少ないし、だからでしょう。それに切羽詰まっているような感じがしたから」

「それでどうして僕の意見を?」

「男の人の考えを聞いてみたいから」

「それは僕と君とのことでよく分かっているはずだけど」

「違うの。彼女は私とは違っているから」

「どこが?」

「浮気じゃなくて本気に近いから。お相手は昔付き合っていた人で親の反対でしかたなく別れた人だそうです。しばらく前に再会して昔の関係に戻ってしまって、昔のことも後悔して悩んでいるというの。会いたい気持ちは募るし、いっそ今の夫と別れてしまおうかとも考えているそうよ」

「僕は浮気という言葉がしっくりこない。君とはもっと真剣に向き合っている。でもその本気とも違う。僕は君が二人の関係について冷静な考えをしているから、こうして会っている」

「それは私も分かっています」

「ところで相手の人は独身?」

「家庭があると言っていたわ」

「それじゃダブル不倫だ。両方の家庭を壊しかねないから、もうその人とは会わない方がよさそうだね」

「だから彼女もそれで悩んでいたわ」

「そういうリスクの自覚はあるんだ。相手の気持ちを率直に聞いて確認してみたらというのが僕の意見だけど。ただ、聞き方はあるね」

「聞き方というと?」

「『私は本気だけど、あなたはどうなの?』と聞くと、普通の男なら引いてしまうだろう。そうなってしまった方がよいとは思うけど。そう聞いてくる相手とは続けるにしてもリスクが高すぎる」

「じゃあ、どう聞けばいい? 相手も友人に好意を持っているからそういう関係になったのは分かっているの。それ以上の答がほしいみたい」

「欲張りだね。それは難しい。彼女の我儘に聞こえる」

「そうね。それ以上を望むならお互いに相当な覚悟がいるわ。それで二人幸せになれる保証などどこにもないし、そういう結末って良いことはないと思う」

「もしこのまま二人の関係を大切にしたいなら、あえて駄目を詰めないで、パートナーには絶対に分からないようにして会い続けるしかないと思うけどね」

「私もそう助言しました」

僕はその友人が上野多恵さんに違いないと思っていた。だけどあえてそれを確かめなかった。直美を信用して相談したのだから、彼女の信用にも関わる。でも直美は秋谷君が僕の親友だと知っているので、あえて彼女のために僕に相談したのかもしれない。いずれにせよ答は同じだ。

相談の内容が内容だけに僕たちはすっかり覚めてしまっていた。彼らのことよりも自分たちの関係を大切にしたい。僕はもう回復していたが、二人がそういう気持ちを取り戻すのには少し時間がかかってしまった。
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