不倫ごっこしてみませんか?―なぜあなたも好きになってはいけないの?

第18話 逢瀬(7)別れの予感とレイプごっこ

二月の始めに3月の帰省の予定日を直美と調整した。春分の日の祝日を含めて3月19日(土)20日(日)21日(月)とした。すぐにホテルの予約を入れた。廸には春分の日を利用して帰省することを話した。

次の日の2月3日(木)になって、直美からメールが入った。[急用が入ったので3月の予定をキャンセルします]。せっかく調整したのに急用ってなんだろうと思ったが、すぐに[了解]の返信を送った。

◆ ◆ ◆
僕は当初の予定どおり、3月19日(土)から2泊3日の予定で帰省した。予定を変更する理由が見当たらないし、本来の目的の帰省に戻っただけだ。ただ、直美に会えない帰省には心が弾まなくなっている。

3月19日(土)7時過ぎにホテルにチェックインした。キーを受け取ってエレベーターに乗って上へ行こうとすると女性が駆け込んできた。直美? 確かに彼女だった。喪服を着ていた。Open ボタンを押して扉を開けておいた。彼女は僕がいたので一瞬驚いた。ここへきていることは想像できたはずだった。

声をかけようかと思ったが、やめておいた。そのあとから喪服を着た男性も乗り込んできた。男性は「すみません」と僕に声をかけた。僕は頭を下げてそれに応えた。

「何階ですか?」

「12階をお願いします」

その男性が答えた。

その男性は直美に話しかけた。

「疲れたね。ゆっくりしよう」

「はい、疲れましたね」

すぐにその人が直美のご主人だと分かった。僕は11階でエレベーターを降りた。声をかけなくて本当によかった。

でも、しばらく前にここで会っていた時も直美とエレベーターで一緒になったことがあった。ほかに同乗者がいなかったが、僕たちは言葉を交わさなかった。

エレベーターには防犯カメラがついている。これを警備会社が常時監視している。同乗者がいなくてもいつも見られているのに変わりはない。抱き合ったりすればすぐに目につく。

僕はエレベーターで一緒にいるとき、エレベーターのミラーに映ったご主人の顔を見ていた。僕は人の顔を覚えるのが苦手だ。でもどこかで見たことがあるような気がした。

ひとは見た目が9割と聞いたことがあるが、その印象は悪くはなかった。男の僕がみてもハンサムで、にこやかで、落ち着いていて、優しそうで、エレベーターの中でもずっと直美のことを見ていて、彼女への愛情が感じられた。直美も僕に見せるいつもの顔とは違った顔を見せていた。

部屋に戻っても直美たちのことが気になった。今頃どうしているだろう? 今夜は愛し合うのだろうか。ご主人に嫉妬した? 間違いなくそうだった。気になってなかなか寝付けなかった。

翌朝、地下の食堂でもエレベーターでもフロントでも二人を見かけなかった。結局3月21日(月)にチェックアウトするまで二人を全く見かけなかった。

◆ ◆ ◆ 
四月下旬の昼休みに直美からメールが入った。[前回は申し訳ありません。次回は5月13日(金)14日(土)15日(日)]。仕事の予定を確認してから[了解]の返信メールを送った。

◆ ◆ ◆
去年は同窓会の前日に会った。あれからもう1年が経っていた。直美とはもう6回は逢瀬を重ねていた。

5月13日(金)の午後7時過ぎにチェックインして部屋に着くとメールを入れた。[1222到着]。

すぐに部屋の電話が鳴った。電話にも注意して出ることにしている。相手がしゃべるまで何も言わない。

「私です。これから行きます」

すぐにドアをノックする音が聞こえた。すぐにドアを開けて中に入れた。そして直美を抱きしめた。1月に会って以来の4か月ぶりの逢瀬だった。いつもより長く抱き合っていた気がする。

「部屋はとなりの1223号室です」

「どうりで早いと思った」

「三月はご免なさい。急にキャンセルして、母が亡くなったので」

「そうだったのか、今までになかったことだったからどうしたのかと心配していた」

「2月3日の朝、ご近所の方から母が倒れて、救急車で入院したと連絡が入りました。すぐに特急列車に乗り込んで、病院に駆け付けましたが、死に目には会えませんでした」

「ええっ、それは大変だったね」

「父が亡くなった時も大変でしたが、あの時は母親が気丈に取り仕切っていました。今回は私が中心になって仕切らならなければならなかったので疲れました。あのエレベーターで会った3月19日に納骨をしました。今は両親の遺品や家具家財の整理をしています。ようやく落ち着いてきたところです」

「何も知らなかった。申し訳ない」

「あなたには何も知らせない方がよいと思って」

「あの人がご主人? 見合い結婚をした?」

「そうです。あなたが予定を変えずに帰省しているかもしれないとは思っていましたが、まさかエレベーターで出くわすとは思いませんでした。正直、驚きました」

「声をかけなくて良かった」

「あの瞬間、あなたは声をかけないだろうとは思っていました」

「僕の目からはとても良い人と見えたけどそうだろう」

「そうですね。気になりますか?」

「気にならないと言ったら嘘になる」

「主人のことをもう少しお話しておきます。あのお見合いの相手が今の主人です。お見合い相手は高校の2年先輩であることは事前に知っていました。お見合いして初めて分かったことですが、彼は私が入学したときに一目ぼれした3年生だったんです。その当時、遠くから見て憧れていた名前も知らないただの素敵なかっこいい先輩でした。当然彼も私の顔も名前も知りませんでした」

「道理でどこかで会ったことがあると思ったわけだ。高校の先輩だったのか。僕もどこかできっと会っていたんだな」

「彼は関西の製薬会社に就職していて、親から見合い結婚を勧められて、後輩の私とお見合いをしたんです」

「それで彼が君を気に入ったのか?」

「ええ、憧れていた先輩に気に入られてとても嬉しくなって、ひょっとして運命のひとかもしれないなんて思って、いつのまにか婚約して結婚していました」

「主人は見たとおり、かっこよくて、それで自信家なんです。だから自信をもって私に接してきました。私が断るわけがないという風に。でも悔しいけどそのとおりになりました。そつがなくて優しくて私には過ぎた人かもしれません」

「僕は負けるべくして負けたと言うわけか?」

「いいえ、あなたにはあなたの良さがありました。人への優しさ、自分への謙虚さ、そして、気配り。今でもそれは変っていません。だからあの時も迷いました。でも彼は私と結婚したいと言ってくれました。その違いかもしれません」

「そのとおりだ。僕にはその前へ進む勇気というか気持ちがなかった。その違いだね。今は少し違っているけど」

「そう、主人には恥ずかしくてしてほしいと言えないことをしてくれる」

「じゃあ、今夜は『レイプごっこ』をしてみないか?」

「『レイプごっこ』? おもしろそう。してみたい」

◆ ◆ ◆
「レイプごっこ」をしてみて分かった。これは体力がいる。実際に実行すると間違いなく犯罪行為だが、仮に実行しようとしても、僕にはもうきっとこういうことは体力的にもできないと思った。

直美も疲れたと見えて、ここまでと終えたところでは、いつもにもましてぐったりしていた。そして今は寝息を立てて眠っている。

まず、始めに二人でルールを決めた。お互いに服を着た状態ではじめること、僕が襲い掛かって直美が抵抗すること、殴ったり、蹴ったり、爪を立てたり、嚙みついたりしないこと、服や下着を破いたり、ボタンが取れたりしないようにすること、大きな声や物音を立てないこと、そして身動きができないように押さえつけて思いを遂げるまで止めないこと。時間は無制限1本勝負。

二人が部屋に入ったところから始めた。まず、僕が直美の後ろから抱きつく。直美は「いや」といって部屋の中へ逃げる。僕が後を追いかけまわす。後ろから捕まえて抱きついて、ベッドに引き倒す。上着を脱がせにかかる。腕を前にして抵抗するが、何とか脱がせる。次にスカートに手をかけて後ろからファスナーを下げて脱がしていく。

「やめて」とか「いや」とか「だめ」と小声でいうので興奮してくる。ブラウスのボタンを丁寧に外していく。その間も腕はバタバタ動かすし、足も曲げて抵抗は続いている。腹ばい寝かせてその上にまたがってパンストを破らないように脱がせていく。ようやく下着だけになった。

女子は非力でたいしたことはないと思っていたけど、相当な抵抗で思ったよりも力が強い。脚をしっかり閉じて、身体を丸められると、何もできない。

部屋に備えつけの寝具の紐が目に入った。手を伸ばしてそれをとって直美を後ろ手に縛った。腕の抵抗がなくなるだけでずいぶん楽になった。足を絡めて、ようやく身体の下に組み敷くことができた。

「勝負ありだね」そういったが、直美は身体の力を抜かなかった。まだ身体をひねって抵抗を続けている。それでなおさら僕も興奮する。これからが本番だ。

後ろ手に縛られた直美は抵抗も空しく僕の思いのままだった。腹ばいに寝かせたり、立たせたり、跪かせたり、あらゆる体位で彼女を可愛がってやった。

そして何度も上り詰めて朦朧とする直美の口の中で果てた。彼女はそれを飲み込んで受け止めてくれた。「ごめんね」というと、彼女が無言で頷くのが分かった。そしてよっぽど疲れたのか、そのあと深い眠りに落ちていった。

「レイプごっこ」をしたかったのは、きっと僕の心の中に直美の夫への嫉妬があったのだと思う。彼と偶然会ったことと彼女から結婚までのいきさつを聞かされたことで、彼女を奪われたという何か鬱積した思いが現れたに違いない。終わった後、なぜか得も言われぬ満足感というか快感があった。

◆ ◆ ◆
翌日はとなりの彼女の部屋で愛し合った。昨日と同じようにしてほしいというので、もう一度「レイプごっこ」を再現した。昨日に懲りて、今度要領よく、すぐに直美の両手を後ろ手に縛って抵抗ができないようにした。それでゆとりをもって長い時間をかけて思う存分に遠くなるほど可愛がってやった。

大きな声を出しそうになったので、猿轡をした。それがかえって刺激になったのか、何度も何度も昇り詰めていた。また、もう1本のひもを股間にとおして引き絞ってやった。「ぎゃー」という押し殺した声が聞こえたと思ったら、もう気を失っていた。そしてそのまま深い眠りに落ちていった。僕もその満たされた思いの中で眠りに落ちていった。

◆ ◆ ◆
直美が僕を揺り起こした。まだ、11時だった。

「目が覚めて考えごとをしていたら目が冴えてしまってお話がしたくなった」

「考えごとって」

「レイプごっこで縛られて動けなくされて可愛がってもらったら、今までにないようなすごい快感があったの。どうしてかと考えていたら、女性には好きな人に無理やり奪われたいという自然な欲求があるとどこかに書いてあったことを思い出して。本当は好きな人に優しくしてもらいたいのにどうしてだろうと思って」

「僕が想像するに女性は逞しい強い男性の子供を産みたいという本能的な欲求があるからじゃないかな。男性なら誰でも女性を無理やりにという本能的な欲求があるのと同じじゃないか。 ただ、理性が抑えているけど」

「あのとき私は抵抗するのに夢中だったけど、すごく濡れてきてしまっているのに気がついて驚いたの」

「そんな時は本能的に強いオスを受け入れる準備をしているのかもしれないね」

「確かにいうとおりかもしれない。そのあとの快感がすごかったのを思うときっとそうね。理系は理論的に考えるのね。聞いてもらってよかった」

「理系といっても生物科学系だけど。それで納得して寝られそう?」

「いえ、ますます目が冴えて眠れなくなりました。それでもう一度お願いします」

直美が感じすぎて早めに快感で気を失って寝落ちしたので、僕にはまだ十分に余力が残っていた。今度は優しく可愛がってやった。

◆ ◆ ◆
朝、僕が目を覚まして自分の部屋に戻ろうとすると、直美が抱きついてきた。

「母が亡くなって、もう、こうしてここへ来られる口実がなくなりそうです。だからこの次が最後になるかもしれません」

「お母さんが亡くなったと聞いたときにそう思った。今度会えたらそれが本当に最後になるかもしれないね。その時を大切にしたい。もう後悔しないように、思いを残さないようにしたい」

「私もそう思っています」

直美を力一杯抱きしめて、それから長いキスをして部屋を出た。
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