【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?
漫画家と鬼編集者

優木(ゆうき)さん、毎回言ってますよね。なぜここの場面が急に変わるんです。それに話も正直微妙です。"結婚"がテーマですよね。それにしてはこのキャラ設定もなってないし。僕の言いたいこと分かって描いてます?」

はい。冒頭からのキツイ言葉で失礼致します。
ペンネーム『優木 莉子(ゆうき りこ)』こと、片桐 晴(かたぎり はる)(26)は今、心がポッキリ折れるぐらいのダメ出しを、このヒットマンから受け続けているのです。

ヒットマンとは私の担当編集者、小笠原 拓実(おがさわら たくみ)(32)のこと。

日本国内で一,二を争う大手出版社『QED』の漫画部門で、常にヒットを飛ばしている男だからヒットマンというあだ名が付けられたらしい。

でも私だってここで引いてたまるか!
「小笠原さんの言っていることは十分わかってます。でもですね、ここの主人公の気持ちを考えたら、やっぱり私はこっちの設定の方が良いかなと」

スマートな黒縁メガネを取り外した小笠原さん。悔しいけど周りが騒ぎたてるほどのイケメンというのはわかる。中身は()編集者だけど。

彼は目頭を片手で押さえながら、私に聞こえるぐらい大きな溜息をついてきた。

「優木さん。確か大賞を取って漫画家デビューされたのは二年前でしたよね。それからと言うもの次の作品がまだ世に出ていない。そろそろ進退を考える時期にきているんじゃないですかね」

「それって……漫画家をやめろってことですか」
持っていた資料をトントンと揃えると、直ぐ様その場に立ち上がって私を見下ろしてきた。

「二ヶ月後に当社の大きな漫画大賞コンテストが締め切りを迎えます。まずはそこで結果を出したらどうでしょう。僕も暇ではないのでいつまでも優木さんに付き合ってはいられません」

腹わたが煮え繰り返る!とはまさにこのことで……でも今の私には何も言い返すことができない。

「わかりました。また修正して持ってきます」
そう言って帰ろうとしたら、小笠原さんは「それと、」とまた余計な言葉を付け加えてきた。

「いくら家でする仕事だからといって身だしなみ、もう少し整えた方がいいですよ。……女性にこんな事を言うのは何なんですが、少し匂いますので」

──キー!余計なお世話です!!徹夜で小笠原さんに言われた箇所を直していたから、ずっとお風呂に入れなかったんです─

喉まで出そうになった言葉を思いっきり歯で食い縛って何とか我慢した。
偉いぞ、私!

()()()()()()!」

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