【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?

私と功太は両親を早くに亡くし、昔からばあちゃんに炊事・洗濯は結構叩き込まれた。
麻希にはその器量をもっと他に生かせとよく言われる。

──50分後。

「正直、片桐さんはズボラな人だと思ってた」

片付け終わって朝ごはんの準備も整えて、一息ついた私に向かって出た第一声がその言葉ですか?

ダイニングテーブルに向かい合って座る小笠原さんは、既にスーツを着て髪も整えたいつものビシッとしているイケメンサラリーマンになっている。
小笠原さんはパンを頬張りながら続けた。

「意外と女子力あったんだ」
まだ言うか。私だって嫌みぐらい言ってやる。

「私もビックリしました─。小笠原さんの会社とプライベートとのギャップが()()()()()違い過ぎて」

「これがいつもの俺だけど?プライベートまで気を張ってるのは馬鹿馬鹿しいし疲れるだけだから。編集の仕事だって好きでやっているわけじゃないし」

正直、小笠原さんから意外な言葉を聞いて私はちょっとビックリした。厳しい口調でいつも泣かされてはきたけど、言っていることは正論なことばかりで、悔しいけどより良い漫画が出来上がるのだ。

「でも朝まで仕事してるなんて、漫画や本に対する情熱がなければできないことなんじゃ……」

「別に、ただ漫画は出版社の所有物に過ぎないし、売れるものを描けなければ切るだけでしょ。情熱だけじゃ経営は成り立たないよ」

漫画は会社の所有物……?切る?
──なんだろう。この気持ち。
私は奥歯を噛み締めた。噛み締めなければ反論する言葉がいっぱい出てきそうだからだ。

そりゃ会社や編集者は情熱だけじゃやっていけないのはわかる。でも……上手く説明できないけど、この人は私達漫画家の気持ちを何もわかってない。その考えは私……

「違うと思います!」
あぁ……せっかく噛み締めていた奥歯が緩んでしまった。

「小笠原さんの考えは確かに正論なのかもしれないけど、漫画家は情熱を持って自分の作品を描いています。正直この仕事に情熱も注げない編集者に見定められている漫画達が可哀想です」

全部吐き出した後で口を押さえたがもう遅い。
まだ今日、住み始めたばかりなのに……。
沸騰した頭が一気に冷めていった私は、その場にいることが急に気まずくなり、食べかけの食器を片しにキッチンへと向かった。
< 27 / 95 >

この作品をシェア

pagetop