【完結】この結婚、漫画にしちゃダメですか?

「是非やらせてください!ちょうど結婚式を挙げる花嫁役の心情を知りたかったんです。……でもなんか山田さんには返しきれない恩でいっぱいになっちゃうな」

「恩?」

「実は私、前に他の編集者の方に聞いてみたんです。二年前、私の漫画を大賞に推してくれたのは山田さんだって。総評には編集者の名前は書いてなかったから」

本当、山田さんには感謝しかない。いつも気にかけてくれて応援してくれて。……なのにまだ次のステップにもいけてないから申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

チラッと山田さんに顔を向けると何か考え込んでいる。

「あ─、あれか。確かにはるちゃんの漫画は他の漫画よりもずば抜けて良かったけど、あれは……」やっぱり!
山田さんだったんだ。まだちゃんとお礼が言えてないまま。

「ありがとうございます。二年も経っちゃっているのに今更ながらお礼、ちゃんと言えてなかったなと思って。"優木先生の実力をこれからもどんどんと発揮してもらいたいです"って言葉、今でも励みになってるんです」

「そう……だったんだ。うん。はるちゃんの漫画は絶対売れると俺は思ってるからね。まずは花嫁バイト頑張ってね」

「はい!」

よ─し。帰ったらまずお風呂に入って一眠りして、スッキリしたところで小笠原さんがギャフンと言うような漫画を描いてやる。

やる気に満ち溢れていた時「結婚といえば、」と山田さんが思い出したように伝えてきた。

「小笠原さん。近々結婚するらしいね」

結婚?……あの小笠原さんが結婚?!なにそれ。全く聞いてないんですけど。

私のビックリした顔を見て察したのか、山田さんは慌ててフォローしてきた。

「あ、ほら。小笠原さんってあまりプライベート話さないじゃない。俺も知ったの最近だし、はるちゃん知らないのは仕方ないよ。……でも、あ─しかし。俺もはるちゃんと一緒に新郎役やりたかったな。はるちゃんの花嫁姿綺麗だろ……」

「お待たせしましたぁ─。ご注文のパスタとサンドイッチのセットでございますぅ─」
店員さんが私達の会話に割って入ってきた。

「うわぁ、ケーキなんて久しぶりです。山田さんいただきます」

「う、うん。いっぱい食べて」
そう言った山田さんは何だか小さな溜め息をついている。

──明らかに私のほうが、量多いから呆れられている?
……うん。ま、いっか。

それよりも空腹感を満たしたい私は、おもいっきり食べながら「山田さんっ」と小声で問いかけた。

「あの無愛想な小笠原さんでも結婚って出来るんですね」
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