若き金融王は身ごもり妻に昂る溺愛を貫く【極上四天王シリーズ】
「桐江さん、ごめんなさい。よかったら食べて」

断りを入れると、これまでの桐江なら食事を冷蔵庫にしまい自身の昼ご飯にするのだが、今日だけは折れなかった。

「ダメです。もう三日もろくに召し上がっていないじゃありませんか。これ以上は、お体が持ちません」

体がおかしくなってきていることは、美夕自身自覚している。

頭がぼんやりして体がだるい。食べていないのに吐き気をもよおす――おそらく低血糖状態なのだろう。

「美夕さん。私もあのお優しい旦那様が横領をしたとは思っていません。きちんと調べれば明らかになるはずです」

「そうかしら……」

同意はできなかった。企業犯罪の場合、確固たる証拠がなければ検察は動かない。万一、冤罪ともなれば、組織のメンツにかかわるからだ。

理解してはいるものの、口にする勇気はなかった。

テレビでは連日、自宅に報道陣が詰めかけている様子が映る。当初は使用人が応じていたが、母が入院して以降は、家に誰もいないらしく応答がない。

家を留守にしておくのは物騒だ。今は報道陣が取り囲んでおり、くしくも防犯になっているが、そのうち泥棒でも入るのではないか。心ない人間にいたずらされるかもしれない。

< 37 / 254 >

この作品をシェア

pagetop