さくらの結婚

悩む、一郎。

 次の日、さくらは僕より先に家を出ていた。
 
 仏壇に手を合わせながら昨夜の事を思い出した。さくらが十歳の時から僕に恋愛感情を抱いていたという話は本当なんだろうか。しかも僕と結婚したいだなんて――。  

 遺影の中の疑うような真由美の視線と目が合い、気まずい気持ちになる。

「僕はさくらをよこしまな目で見た事はないぞ。血がつながってなくてもさくらは僕の娘だ」  

 真由美がわかってるわよと、微笑んだ気がした。  

 真由美は三十五歳で亡くなった。膵臓癌だった。病気が見つかった時はもう手遅れで、余命半年だと言われた。  
 真由美は僕に対して申し訳ないとずっと言っていた。そして、さくらの事を最後まで心配していた。 

 僕は真由美と約束した。さくらが嫁に行くまで僕が彼女を守ると。

「真由美、昨日のさくらのあの言葉はやっぱり冗談だよな?」  

  僕の問いかけに真由美は静かに微笑むだけだった。
< 8 / 25 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop