妹と人生を入れ替えました~皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです~
(どうしよう……どうするのが正解なの⁉ )


 窓の外を眺めるのは何だか気取ってる感じがして嫌だし。部屋の中を歩くのも落ち着かないのがバレそうで嫌だし。布団の上で三つ指を――――とか論外!絶対無理!


(かくなる上は)


 わたしは急いで布団の中に潜り込むと、ギュッと目を瞑った。ついでにスースーと穏やかな寝息の演出を付け加える。

 それからすぐに寝室の扉が静かに開いた。しばしの沈黙。わたしは思わず息を呑む。
 ややして、衣擦れの音と共に足音が聞こえだした。シンと静まり返った寝室の中、それはやけに大きく聞こえる。その数秒後――――わたしにとっては永遠の如く感じられる数秒間だったけど――――寝台の前でピタリと足音が止まった。


「…………」


 鋭い視線と無言の圧を感じながら、わたしはスースーと息を立てる。


(わたしは寝ている! 寝ているったら寝ているんだ!)


 うるさいほどの脈動。身体中の毛穴が開いているんじゃないかって程、ダラダラと汗が流れ出し、物凄く落ち着かない。

 やがて、憂炎は小さくため息を吐き、わたしの隣に潜り込んだ。シーツが擦れる音、敷布が沈む感覚、背中に感じる風、全てが大袈裟に感じられる。


(憂炎、寝ろ! このまま寝てしまえ)


 心の中でわたしはそう強く念じる。心臓が口から飛び出しそうだった。憂炎に起きてると悟られないよう、息を殺し身体を縮こまらせ、目をギュっと瞑り続ける。


「――――凛風、起きてるんだろう?」


 だけど、悲しいことにわたしの願いは憂炎に届かなかった。
 首筋に感じる熱い吐息。次いで腰のあたりをギュッと抱き寄せられて、上手く息ができない。憂炎の唇がわたしの肌を撫でる。身体の奥底から熱を引っ張り出されるような感覚に、思わず唾を呑んだ。


「凛風」

(やめろ、憂炎。そんな風にわたしを呼ぶな)


 熱っぽく紡がれた自分の名が、心臓の辺りに潜り込み、何度も何度も暴れている。キュッと締め付けられるような感覚が広がって、苦しくてたまらない。


「凛風」


 身体を仰向けにされ、間近に憂炎の視線を感じる。あまりの熱さ。思わず目を開けてしまったのが、わたしの運の尽きだった。


「おまえは――――おまえだけが俺の妃だ」


 憂炎の言葉を最後に、わたしたちの唇が重なる。
 その夜、わたしは月明かりに照らされた憂炎の紅い瞳に囚われ続けたのだった。
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