妹と人生を入れ替えました~皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです~
「――――で? どうしておまえがここにいるんだ」

「……え?」


 ここは憂炎の執務室。
 わたしは妃の重い装束を脱ぎ、身軽で上品な華凛の服に身を包んでいる。


「――――――まさか、秒でバレるなんて」

「だから! 分かるって言っただろう!」


 憂炎は声を荒げ、呆れた表情でわたしを見ている。
 

「今回の入れ替わりはわたしの発案じゃないのに。そんなに怒らなくたって良いじゃないか」

「……? おまえから言い出したんじゃないのか?」

「うん。華凛が白龍の気を惹きたいんだって。散々協力してもらったんだから、わたしも協力しないと」


 そっと耳打ちすれば、白龍の眉がピクリと上がったのが分かる。白龍がわたしたちを見分けられるのか、それはわたしにはイマイチ分からない。

 華凛からはただ、三日間入れ替わってくれれば良いと、そう言われている。

 憂炎は唇を尖らせつつ、一応は納得してくれたらしい。
 わたしのことをまじまじと見つめつつ、頬をほんのり紅く染めている。


「ほら? 何だかんだ言って、憂炎だって日中わたしと一緒にいられて嬉しいんだろ?」

「――――――当たり前だろう?」


 嬉しくて、ついつい笑みが零れる。憂炎は恥ずかしそうに頬を赤らめつつ、わたしのことをまじまじと見つめた。

 憂炎の妃に戻って分かったこと。それは、憂炎がありのままのわたしを、心底愛してくれているってことだった。気持ちを疑う暇なんてありゃしない。寧ろ嫌になるぐらい、心と身体に刻み込まれている。


「ねぇ、仕事が終わったらさ、久しぶりに街歩きに行ってみない? この辺の露店って全然回ったことないし、昔みたいに食べ歩きとかしたい! ……ダメ?」


 それは、もしも憂炎と私が皇太子と妃じゃなくて、普通の夫婦だったら……って想像した時に、やってみたいことだった。
 二人して昔みたいに気楽なお忍びファッションに身を包んで、仲良く手を繋いで歩けたら楽しいだろうなぁって。

 だって、折角華凛と入れ替わるんだもん。後宮にいたらできないことを思いっきりやりたい。憂炎と二人で。


「それは良いけど…………ちゃんと戻ってくるんだろうな?」


 憂炎はわたしの手を握り、困ったように笑う。


(手を放す気なんかない癖に)


 あくまでもわたしの意志を問う憂炎に、胸がキュンと疼く。
 憂炎を『可愛い』なんて思う日が来るとは、本当に人生は何が起こるかよく分からない。


「当たり前だろう? わたしはおまえの妃なんだから」


 そう言ってわたし達は顔を見合わせて笑う。

 物凄く遠回りをしたけれど、これがわたしの選んだ人生。

 時に自由が恋しくなって、息抜きしたくなる時もあるかもしれない。だけど、それは全部憂炎の隣で。
 二人で寄り添いながら、自分らしく生きていけたらきっと、めちゃくちゃ幸せだ。


 温かくて優しい憂炎の口付けを受け入れながら、わたしは満面の笑みを浮かべたのだった。
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