雇われ寵姫は仮初め夫の一途な愛に気がつかない
 ぐぬぬ、とリサはティーカップを両手で握り締めて耐える。唇を噛み締め、眉間に皺まで寄り、およそ貴族のご夫人にあるまじき顔付き。そんなリサにステンは「は」と軽く鼻で笑う。

「夫婦は似てくると言うが、まさにその顔はディーにそっくりだな」

 仲睦まじいことで、とさらに追い撃ちがかかった所でリサに限界がきた。そっとティーカップを下ろし、空いた両手で今度は顔を覆ってソファに深く背中を預ける。ぐったり、とした姿で背もたれに頭を乗せ、そして「あああああ」となんとも気の抜けた声を上げた。

「人の事を散々思春期とからかってくれたが、実際はディーとリサの方だろう、それは」
「……誠に遺憾であります」

 なんだそれ、とようやくステンは素の笑みを見せた。狼狽えるリサの姿にひとまず溜飲が下がったというところか。

「ほんっっとうに、何度だって言わせてもらうが」
「できれば先程ので終わらせていただきたく」
「初恋を拗らせ過ぎたディーもディーだが、普段は聡いくせにディーからの想いだけは頑なに気付かないようにしていたリサもリサだ!! そのくせに人の事を好き勝手思春期思春期とよくも言ってくれたものだな!」

 常に悠然とした態度を示している国王が珍しく声を荒げている。これはたいそうお冠だ。ひとまずその怒りが治まるまで、もしくはせめてどの程度の怒りなのか判断できるまで大人しく「はいはい」と頷いていればいいものの、ひたすら狼狽えまくっている状態のリサであるからして、よりにもよっての選択肢をとってしまう。

 つまりは、余計な一言をついポロリと。

「陛下が思春期なのは別の話では?」

 ほほう、とステンの笑みに凄みが増す。口元は笑っているのに目は、というヤツだ。

「ティーアと結婚してからの五年間、寝室での会話はずっとお前達夫婦の事だったんだが、それでも別の話と言うのか?」

 聞きたくない、これは聞いてしまったら最後、羞恥心で死んでしまうのが確実だとリサは顔を覆っていた手を動かし今度は両耳を塞ぐ。もちろんそれで黙ってくれるはずもなく、ステンは容赦なく話を続ける。
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