キミの恋のはじまりは

自分の働きに自分で安心したのか、周りの音が耳に入ってきた。

隣の彼は「あちーね」とつないでいない手で制服の胸元をぱたぱたとして風を送り込んでいる。



私も「ですね」と短く返す。



梅雨明け直後の7月の空は底抜けに青々として、熱い光を振りまいている。アスファルトがじっとりとした空気をはらんで、体の熱が逃げていかない。



自分の右側を見下ろせば、しっかりと繋がれた手。まるで呪いのようだ。

そこから伝わる彼の生ぬるい体温と汗に、また一人応援団を結成して自分を奮い立たせた。



がんばれー、がんばれー。大丈夫。

手をつなぐのは大丈夫なはず。

前もそこまでは頑張れたし。

この第一関門を乗り越えれば、きっと私は前に進めるはず。

がまんだー、がまんだー、私。



………あれ?

なに、これ。罰ゲーム?我慢大会?



自分でももうそれはおかしいぐらいに、繋がった右手の感触に耐えるのに必死。



『……いや、そもそも必死になるっておかしいでしょ』



あー、嫌な奴の顔思い出しちゃった。

いいじゃん、べつに。

必死だよーだ。

早く忘れたいんだよーだ。

あんたみたいに、のほほんと生きてないんだよーだ。



せっかく一人応援団で気持ちを落ち着かせようとしていたのに

アイツの顔が浮かんできて、途端にしぼんでいく私の我慢大会への意気込み。


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