真面目系司法書士は年下看護学生に翻弄される
「金が必要で、住むところもない。子供の父親の名前は言えない……ってことだな」
兄は天井を見上げた。

優菜は頷く。

「今お世話になっている知り合いの家は、契約で3月には出て行くことになっているの」
優菜は申し訳無さそうに兄に報告する。

優菜の話を聞いて、兄はいろいろ考えているようだった。

「……わかった何とかしよう。とりあえずお前がちゃんと住めるように、生活できるよう、俺も考えるから、ひと月だけ待ってくれ」

兄はそう言ってくれた。兄の働いていた合羽工場は、なんとか持ちこたえ軌道に乗ったらしい。

折しもコロナの影響で、なぜか防護服代わりに業務用の合羽が大量に購入された。

それに加え新しく防護服を製造する専門の機械を入れたらしく業績はうなぎのぼりみたいだった。

それから、と兄は、母から相続した遺産。貸していたお金、それにプラス迷惑料としてまとまった金額の入った通帳を優菜に渡してくれた。

そこには今までの学校の授業料が支払える額と、林さんから借りたお金を十分に返せるだけの金額が入っていた。

思わずその通帳を握りしめ優菜は涙を流してしまった。
「……ありがとう」

「もともとお前の持ち分だ。すまなかった……今まで迷惑をかけたな」

お兄ちゃんもなぜか泣いていた。

この子のおかげかもしれない。
まだ少しも膨らんでいないお腹を優菜は優しく撫でた。

< 42 / 71 >

この作品をシェア

pagetop