真面目系司法書士は年下看護学生に翻弄される


退院して半年がたった。朝陽の診察に病院を訪れた日、後ろから声をかけられた。

「優菜ちゃん?」

聞き覚えのあるその声に振り向くと、山本さんが白衣姿で立っていた。

知らなかったが彼は医師だったらしい。
驚いて、なんでこんなところにいるのかと質問した。

「研修医なんだよ、専修医ってわかるかな……今それ」
山本さんは朝陽に目を合わせながらそう答えた。

専修医とは大学を卒業して、3年目以降の研修医を指す。
臨床研修期間は、前期研修医1~2年と後期研修医3~5年。長い道のりだ。

「わかります。後期研修医ですね」

彼はうんうんと頷いた。

しゃがんでベビーカーの中を覗き込み。

「はじめまして、なにちゃんかな?」

朝陽に話しかけた。

「朝陽です。男の子、早産だったので小さめですが今9ヶ月です」

やはり同じ月齢の赤ちゃんよりは3ヶ月ほど小さい。けれど、小さい意外には異常も見つからなかったので優菜はとても安心している。

「かわいいお子さんだね。男の子か、美人のママがいて羨ましいな。また時間があるとき連絡するよ」

そう言うと急ぎ足で行ってしまった。

通りがかった看護師からの視線が気になった。勿論自分ではなく彼に見惚れているようだった。どこの病院でも若い医師は人気者だろう。

白衣をヒラヒラさせながら廊下をさっそうと歩く後ろ姿を見ながら、忙しすぎて自動車免許を取るのも大変だったんだろうな、と優菜は頷いた。

病院勤務か……そろそろ私も働きたい。ベビーカーを押して歩き出した。
朝陽は今日機嫌が良く笑っている。親バカだがかわいい子だといわれて嬉しかった。
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