真面目系司法書士は年下看護学生に翻弄される


一緒に仕事をするようになってひと月が経った。
林さんはこの事務所を軌道に乗せようと毎晩遅くまで仕事しているようだった。独立開業してたくさん仕事をこなす事ができれば、かなりの高収入が見込めるのだろう。
同じマンションに自宅があるので比較的通勤などは楽なようだが、全く知り合いのいないこの町で客を集めるには、小さな仕事も引き受けて顔を広げていくしかなかった。

優菜は少しでも力に慣れるようにネットで広告を打つ方法で顧客獲得を狙った。

「延長保育もできますので、残業しましょうか?」

優菜はここから歩いて迎えに行ける保育園に朝陽を預けている。出社する前に預けて3時に仕事が終わると迎えに行く。

「大丈夫だよ朝陽くん迎えに行ってあげて」
決して大丈夫ではないだろうが、林さんは常に朝陽を優先してくれた。

帰りに事務所によって朝陽の顔を見せて欲しいと頼まれていたので、いつも林さんに顔を見せてから車に乗って帰るのが日課になっていた。

場合によって優菜が外に出ていて迎えの時間が間に合わない時は、林さんが私の代わりに園へ迎えに行く日もあった。
子どもがとても好きなんだろう。「癒されるよ」と林さんはいつも嬉しそうだった。

「林さんがパパなら子供も幸せでしょうね」

冗談交じりに言ったら、一瞬、林さんが凍り付いた。
まずい。なんかまるでパパになってと無理強いしているみたいだったかも。
そんな大それたことは考えていない。まして父親も解らない子供と未婚の母親。そんな誰かのお古みたいなものの面倒をみろだなんて口が裂けても言えない。

少し気まずい空気になったので、それではまた明日よろしくお願いしますといって職場を後にした。

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