真面目系司法書士は年下看護学生に翻弄される


「看護師になったら職業的には安定するだろうから、もうアルバイトしなくても暮らしていけるね。それに男はナース好きだしな。ドクターと結婚も夢じゃないね」

鈴木さんの骨ばった奇麗な指が美しい所作で香の物を摘まむ。

病院勤務になったら寮で暮らせるので後は贅沢しなければ何とかなるだろう。

「気の強い人が多いので看護師がモテるっていうのもどうかと思います。でも、看護師になれば一人で十分生活はできると思っています」
元気にそう伝えた。

誰かの命を救いたい、とか大それたことを考えている訳ではないが、職にあぶれることは無いだろう。兄と違って堅実な自分は偉いと心の中で呟いた。

「まだ二十歳そこそこの女の子って、なんか生き生きしていて羨ましいね。辛いこともあるだろうが、同時に夢と希望もあるからね」

大人の男の人に失礼かもしれないが、林さんのニコッと笑った笑い皴が可愛いなと思った。
頭の良さそうな仕事について、いたって真面目に生きてきた男性。
自分のように二十歳そこそこで人生の酸いも甘いもを経験した、すれた女の子にはない大人の魅力を感じた。

林さんは私よりは随分年上だろう。結婚はしていないといっていたが、独身のふりをするお客さんは多いので話半分に訊いておく。こんな優しい人を旦那様にできる女性は羨ましいなと思った。


「もう遅いし、そろそろ帰ろうか」

「はい。今日はありがとうございました」

「いや、こちらこそありがとう」

楽しく1時間ほどおしゃべりした後私たちはタクシーに乗った。林さんは帰り道だからとタクシーに同乗させてくれて家の前まで送ってっくれた。

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