純愛カタルシス💞純愛クライシス
『学くん、ありがとう!』

「体調、大丈夫なのか?」

『ごくたまに気持ち悪いときがあるけど、寝込むほどじゃないかな』

「それはよかった。なにか手伝えることがあれば、遠慮なく言って。買い物とかさ、重たいものを持つくらいできるから」

 言ったあとに、それくらい旦那さんがやることだと気づいて、ひとりで勝手にショックを受けた。

『それじゃあ、たまに頼むかも。学くんの嬉しい報告も聞きたいしね』

「嬉しい報告?」

 意外な美羽姉のセリフを不思議に思い、寝癖を揺らす勢いで小首を傾げた。嬉しい報告の意味が全然わからない。

『学くんの彼女の報告だよ。幼なじみのお姉さんとして、やっぱり挨拶しておきたいなと思うじゃない。というかそんなふうにいつも寝癖をつけてたら、パッとしないよ。せっかく背が高くて目立つのに、本当にもったいないな』

(寝癖をつけてるのは、俺を見た目だけで判断する女子が、寄ってこないようにするためのアイテムなんだよ……)

「それ、余計なお世話って言うんだ。俺は好みにウルサイ男だから、すぐに報告できないと思う」

 美羽姉の好みの範疇に入らない、この見た目が嫌で仕方ないのに、それをすき好んで告白してくる女子の存在は、正直ウザかった。おかげで告白を断ることについては、慣れてしまった。

(悪いけど好きなコがいるから、誰とも付き合わない)というお決まりのセリフを言い放ち、好きな相手を探ろうとする女子との会話を避けるために、その場からすぐに身を翻す足の速さは自慢だったりする。

『そういえば学くん、アイドルが好きだったっけ。美佐子おばさんが前に教えてくれた。理想が高すぎると、ずっと独り身でいることになるよ』

 言いながら俺の寝癖を直すために、頭を優しく撫でる。相変わらずの弟扱いは嫌なはずなのに、その手を退かすことができない。どうして俺は、美羽姉よりも年下に生まれてしまったんだろう。せめて同い年だったなら少しくらい、この恋は報われたりしなかったのかな。

(2番目でもいいから、恋人にしてよ。みたいなことが言えてしまうかも――まぁ美羽姉の性格上、2番目を作ることは絶対にありえない……)

 そんなくだらないことを考えつつ、美羽姉のセリフに返事をしてやる。

「別に独り身でもかまわない。気楽でいいし」

 きっと俺は、美羽姉が離婚するのを待っているような気がする。子連れでもいいから別れてくれないかなって傍で眺めながら、ムダにずっと待っているだろう。

 こんなことばかり思いつく俺の想いは、見事に堂々巡りをする。その先の未来にいろいろあって、報われるなんて思いもよらずに、このときの俺は自分の立場を呪った。

 告白はおろか、幼なじみという間柄を壊すこともできずに、ただただ傍観することしかできない無力な自分を嘆き悲しんだ。
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