初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが

「ああ、この平民女とそこで伸びてるセドリー令息を不法侵入で逮捕しろ!」
 リエラがハッと目を開けるのと、憲兵がシェイドに敬礼を返すのがほぼ同時で、リエラは思わず周りをキョロキョロと見回した。
(え、無罪? 私、無罪ですか?)

 呆然と喜ぶリエラとは対照的にクララが涙を称えつつ怒気を放った。
「ちょっと! どういう事ですか? 私は被害者だって言っているのに!」
 そんなクララにシェイド様は訝しげな眼差しを向ける。

「……平民が許可なく貴族の身体に触れるなど許されない。市井にいる者なら常識だろう。知らぬとは言わせない」
 今尚添えられた手を怪訝な顔で見下ろして、シェイドは嫌そうに身を引いた。

 ……そう、確かにリエラも戸惑った。
(それくらい貴族と平民の間には高い身分差があるというのに……)

 確かにクララはアッシュから良い服を与えられているようだが、それでも、少なくとも城内で彼女と貴族と思う者はいないだろう。それ程に貴族女性とは洗練されているものなのだ。言葉遣いや所作一つとっても、彼女を貴族と見まごう者はいない。

 シェイドはもしかしたら寛大な心で対処してくれるかと思ったけれど、やはり常識的に許されなかったようだ。……少しだけ意外だけど。
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