初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが

 うんそうだとホッと息を吐いて、退室の意思を告げその場を辞した。一応後で父に聞いてみようと考えを巡らせていると、隣を歩いていたシェイドが躊躇いがちに口を開いた。

「あの……クライド殿下と、婚約なさる……のですか?」

 ……あなたまで何て事を言い出すのか。

「ありえませんよ。そもそも我が家には打診すらきていないんですから」

 ないないと手を振り否定する。
 そして先程ウォム医師にそう言えれば良かったと後悔した。混乱を極めて思い付かなかったのだから仕方がないけれど。

 そう、普通は打診があるはずだ。
 その打診がくる前に各家の根回しとかがあったりするのだけれど。リエラの場合、王族なんて荷が重いので、そんな画策はしないで下さいと父に願い済みであった。
 政治利用して欲しいと言っておきながら都合が良いが、シェイドの件もあったし、家族思いで野心もない父は娘の思いを汲んでくれた。
 その為、打診なんてある筈もなく……

 うん、ない。

 確信に満ちて改めてシェイドを見上げれば、ホッとした様子で息を吐く。
(……そうですよね、もし私と四六時中顔を合わせる事になったら嫌ですものね)

 少しだけ気持ちが落ち込んだ。
 そしてシェイドの緩んだ表情に、リエラも張り詰めていた何かが(たわ)んでしまった。
 
「あの……申し訳ありませんでした……」
 だから気付けば謝罪を口にしていた。
 リエラのシェイドへの良心の呵責は、そもそも限界だったのだ。

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