初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが

 シェイドは卒業後私の側近として宮廷貴族となる予定だ。彼の弟が高位貴族の次女と婚約し、両親が弟に爵位を渡す事を決めた為だ。
 シェイドの弟には兄を差し置いてと迷う気持ちもあったようだが、婚約者と良好な関係であった事、相手と添い遂げたい気持ちが勝ったようだった。

 しかしその弟の婚約はシェイドが王族の側近となる事が後押ししたもの。だから侯爵家が子爵家へ嫁す事を許したというのに……当の功労者であるシェイドは床に膝を付き涙を流している。

「……」

 少しだけ不憫に思った。

 アリサを見れば同じ気持ちのようで、複雑な表情をしている。
 彼女もまた、不実な男は嫌いだが、シェイドの働きは学園の垣間見てきた仲である。確かに不愉快な態度を取った履歴はあるが、経緯があるし、今は真面目だ。礼節も処世術も身につけている。

(確かセドリー家には問題児がいたんだっけか……)

 クライドは頭を巡らせた。
 特に気にした事も無かったが、そういえばリエラは隙のない令嬢だった。家柄に間違いはなく、教育も行き届いているのだろう。
 これは貴族の娘として申し分ない資質である。それ故に申し訳無いが、力技で貶める必要があるのだ。シェイドの元に堕とす為に……

(昔好きだった男に、少しだけチャンスをあげておくれね)

 チラとアリサを見ればこちらの意図を汲むようにこくりと頷いた。
 そうしてクライドは伯爵家に堅固に守られている娘を引っ張り出す為、レイモンドを巻き込んで画策した。
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