初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが

 しかしセドリー伯爵が二人の仲を認めず、貴族の妻を望み息子に縁談を持ちかけた。そしてこの場をすっぽかせず断れないようにと、王族に頼み込み、見合いの場の予約店に御名を使わせて貰ったのだそうだ。

 セドリー伯爵家には王妃殿下の妹御様が嫁されているので、それくらいの融通はつくのだろう。

『君はなんて浅ましいんだ』

 それで仕方がないから来たけれど、そこまでして自分と結婚しようとするリエラに対して向けた言葉がこれであった。
(……言葉が過ぎるわ)
 リエラは思わず半眼になった。

(どうして私がご自分と結婚したいと熱望する事が前提なのかしら。伯爵ももう彼らの仲を認め、ついでに息子を見限ったらよろしいのだわ)

 先程からの勝手な言い分に、つい辛辣な言葉が頭を過ぎる。
(お兄様に任せた私も馬鹿だったのだけれど)
 どうせセドリー伯爵に王族の名前を出されて安心したのだろう。
 確かに王家の名前を持ち出されたら断れないけれど、事前にどんな相手なのか知っていればこっちだって心構えくらい出来たのだ。
 釣書を見て何も期待しないで来たけれど、結果は散々。期待しなかっただけマシとも言えない。
(はあ)

 だから婚活を頑張らなければならないのに。けれど逃げているのは自分だ。もしかしたらこの場はそんな兄からの激励の意味が込められたもので──
(そんな訳ないわね)

 上がり掛けていた兄の評価をばっさりと否定する。
 あの単純な兄が。
 ないないない、とリエラは内心で首を横に振った。
 自分もまあまあ酷い妹である。
< 9 / 94 >

この作品をシェア

pagetop