冷酷御曹司の激情が溢れ、愛の証を宿す~エリート旦那様との甘くとろける政略結婚~

 陽が落ちて暗くなった空を背景にしてそびえ立つクレシャリーテホテルの外観を眺めながら、着物姿の私は小さくため息をこぼす。

 このホテルにはいい思い出がない。

 結婚式のあとに宿泊したのは、クレシャリーテホテルの中でもたった一部屋しかない〝クレシャリーテスイート〟。本当なら素敵な夜になるはずだったのに、充さんに告げられた言葉で奈落の底に突き落とされたような気持ちになった。

 私はあの言葉を忘れられない。

 重厚感溢れる正面玄関を抜けてエントランスに足を踏み入れる。少し進むとロビーがあり、二階部分まで吹き抜けになっている高い天井が開放的な空間を演出している。

 今日は充さんの恩師夫妻が来日するので、一緒に食事をする予定になっている。

 恩師夫妻はすでにホテルに到着してチェックインを済ませ、食事の時間までは部屋で休んでいるそうだ。

 私は、仕事を終えた充さんが東京にある本社からここに来るのを待ち、合流してから一緒に食事会場であるレストランへ向かうことになっている。

 現在の時刻は午後六時二十分。約束の時間である午後七時までにはまだ三十分以上もある。
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