政略結婚は純愛のように〜完結編&番外編集〜
 すやすやと可愛い寝息を立てる由梨を、隆之はベッドに腰掛けて見つめている。
 彼女の中に自分との間に産まれくる新たな命が存在する。その奇跡のような幸福を心の中で反芻しながら。
 隆之はずっと、加賀家を存続させ、この街の人々を幸せにすることがお前の使命だと言われてきた。たくさんの人の人生がお前の肩に乗っていると。
 人はそれぞれ役割を持って生まれてくると言ったのは誰だったか。

 だとすれば自分は、そういう星のもとに生まれたのだろう。

 それを重荷に感じたことなど一度もない。
 今までも、おそらくはこれからも。
 だが今、愛おしい由梨と小さな命を前にして、心が震え、恐れにも似た感情が胸の奥に芽生えるのを感じている。
 人を愛するということは、人を臆病にするのかもしれない。
 絶対に守らなければならない小さな命と尊い存在を幸せにするという使命は、なによりも重く感じられた。
 隆之は、眠る由梨の白い頬に人差し指でそっと触れる。ため息をついて、今日の昼間、自身の叔父と会った時の出来事を思い出していた。
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