政略結婚は純愛のように〜完結編&番外編集〜
「でもどうしてアルバムなんか引っ張り出してきていたんだ?」

 たくさんのアルバムがあらかた年代順に整理できた頃、隆之が由梨に向かって問いかける。
 由梨は少し考えてから、コーナーソファの隆之が座っている場所と反対側に腰を下ろす。そして迷いながら口を開いた。

「……実家から連絡があったんです」

「実家から?」

 隆之がわずかに眉を寄せた。

「はい。祖父の遺品の整理がようやく終わったから、私の部屋を整理したいと……。私アルバムなんかは、実家に置いたままでしたから、一度整理しにこいって」

 その話を秋元としていたら、隆之の昔のアルバムを見ようという流れになったのだ。
 実家の自分の部屋に思い入れはあまりないし、残っているものなどあまりないとは思うけれど、おそらくは父と母の写真などもあるはずだから、由梨は週末を利用して一度東京に行こうと思っていた。
 その由梨の話に、隆之は難しい表情になった。
 傍に置いてあったタブレットを起動させてなにやら考え込んでいる。

「隆之さん……?」

 由梨が呼びかけると、ようやく口を開いた。

「再来週なら時間が取れるかな。日帰りになってしまうが……」

 その言葉に、由梨は慌てて首を横に振った。

「そんな! 大丈夫です」

 忙しい彼にわざわざ付き添ってもらうほどのことではない。

「私ひとりで行ってきます」

 でもそれに隆之は頷かなかった。

「由梨、そういうわけにはいかない」

 タブレットを置いて真剣な表情で由梨を見る。
 由梨を思いやって口にはしないけれど、前回実家に帰った時に由梨の身に起きたことを思い出しているに違いなかった。
 実際由梨はあれから一度も実家へは戻っていない。

「だ、大丈夫です」

 由梨は言葉に力を込めた。
 由梨を連れ去った、従兄弟の和也はもう屋敷にはいない。
 隆之が今井家の弁護士と交わしてくれた合意書の存在がある限り、他の親族が由梨になにかをすることもないはずだ。

「屋敷には今は叔父夫婦しか住んでいません。残す物と捨てるものをより分けるだけで泊まるつもりもありませんから……」

 滞在時間は数時間もないはずだ。

「それに、日曜日は久しぶりに学生時代の友人と会いたいなと思っているんです」

 最後にそう付け足して、由梨は彼を見つめる。
 隆之はそれでもまだしばらくは思案していたが、小さく息を吐いて納得した。

「……何かあったら、すぐに連絡するように」

 由梨はホッと息を吐いた。
< 7 / 46 >

この作品をシェア

pagetop