傷だらけの黒猫総長




「忘れないで、市松さんに言われてきたことを。温かい彼女の声を、視線を、表情を、思い出してごらん」


「……」




葉が促せば、皇輝は眩しいものを前にしたように、目を細める。

強ばりが解けつつあるその肩に触れて、葉は道を指し示すように告げた。




「自然と溢れてくる気持ちは、どんなもの? 感じられるよね。僕達の合言葉通り、“心のままに”……皇輝、君は市松さんのことが――」


「――……好き、だ……」




ただ一言口にした皇輝の瞳は、血の通わない無機質なそれから、感情的で人間味のあるものへと変わっていた。

葉は目を伏せて微笑み、何かを……誰かを恋しがる表情を浮かべた皇輝に、「帰ろう」と告げる。


心の奥に残った影は、皇輝に躊躇いを抱かせながら、眠るように息を潜めた。



< 174 / 283 >

この作品をシェア

pagetop