追放聖女はスパダリ執事に、とことん甘やかされてます!
「おはよう、レイ」


 ヘレナが笑うと、レイも穏やかに目を細めた。心臓に悪い、煌びやかな笑みだ。ドッドッと鳴り響く胸を押さえつつ、ヘレナはシーツで口元を覆い隠した。


「新しい寝台は如何でしょう? よく眠れましたか?」
 
「ええ、とても。もしかして寝すぎてしまったのでは、と思うぐらいには……」


 言いながらヘレナは小さく首を傾げる。レイはクスリと笑いつつ、流れるような所作でグラスに水を注いだ。


「そうですね……お嬢様はあれから丸二日、お休みになられていました。余程疲れが溜まっていらっしゃったのでしょう」

「……やっぱりそうなのね」


 ヘレナはそう言って頭を抱える。
 先程感じた違和感――――その理由がこれだった。狂った体内時計が一周回り、元に戻っていく様を自覚しつつ、ヘレナはふぅとため息を吐いた。


「あーーあ、ついにお祈りをサボっちゃったわ……まったく、ダメな聖女よね」


 自嘲的な笑みを漏らしつつ、ヘレナはそっと天を仰ぐ。
 幼い頃から、ヘレナは朝のお祈りを欠かしたことはなかった。毎朝、神への感謝と平和への祈りを捧げる――――それは国から聖女として扱われていたヘレナにとって、己の存在理由のそのものだった。


(こんなだから、国を追い出されちゃったのよね、わたし)


 心の中でそう呟きつつ、ヘレナの胸に鈍い痛みが走る。カルロスが『偽物』と疑うのも納得だ――――そう思っていると、レイがゆっくりと首を横に振った。
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