追放聖女はスパダリ執事に、とことん甘やかされてます!
 分厚い表紙を開きつつ、ヘレナがそう口にすると、レイはほんのりと目を丸くした。

 実家に居る間は、屋敷も大きければ使用人も多いため、レイの能力を活かす機会が多かった。彼の統率力無くして、侯爵家は成り立たない――――父が何度もそう口にしていたことを知っているし、その度にヘレナは誇らしく思っていた。領地の管理に携わっていたこともあって、適材適所と言えなくもない。

 けれど、今のレイは完全にヘレナのためだけに働いている。
 ヘレナのために食事を作り、屋敷中の掃除をし、買い物や庭仕事、ヘレナの話し相手迄、全てを一人でこなしているのだ。


(本当に勿体ない)


 唇を尖らせつつ、ヘレナは心の中でそう呟く。

 当然、それらは誰にでも出来る仕事ではない。寧ろ、レイだからここまで出来るのだと分かっている。
 けれど、レイにはもっと、日の当たる場所に出て欲しいと思ってしまう。皆にもレイの良さやすごさを分かって欲しいのだ。


(文官とか、騎士とか……レイにあった就職先は幾らでもあるんだけどな)


 優秀な彼のことだ。上官や国王の目に留まり、出世することは間違いない。ヘレナが王太子妃になったら、口添えをしてレイに転職を促そうと思っていたぐらいだ。


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