追放聖女はスパダリ執事に、とことん甘やかされてます!
(今だって十分、酷い惨状だというのに)


 心臓がドッドッと嫌な音を立てて鳴る。
 全ての元凶であるカルロスは、未だ不遜な表情を浮かべていた。そのことがマクレガー侯爵の神経を逆撫でする。


(こいつ――――自分がしでかしたことの重大さを分かっていないのか?)


 罵倒してやりたい気持ちを必死で押し隠し、侯爵は小さく息を吐いた。


「ヘレナは隣国――――ストラスベストの王宮に保護されているのではないでしょうか? 聖女は貴重な存在です。手厚く持て成されているかもしれません。妹は行く当てもありませんでしたし……」

「そう思って、隣国には私から既に遣いを出した。けれど、ヘレナのこと等知らないと――――そう言われてしまってね」


 国王の言葉に、侯爵はカルロスを軽く睨む。カルロスはムスッと唇を尖らせ、偉そうに腕組みをしていた。


「どんなに小さなことでも良い。他に何か……ヘレナが行きそうな場所に心当たりはないだろうか?」


 藁にもすがるような表情の国王に、侯爵は静かに目を伏せる。


「――――妹の居場所は分かりませんが、無事であることは確かです。我が家の執事が一人、ヘレナの国外追放と同時に居なくなりましたから。ヘレナのことは、彼が間違いなく保護しているでしょう。
けれど、二人の居場所に関しては全く見当がつきません。ストラスベストは広大な国土を誇る国ですし、見つけることは相当困難だと思います」


 そう口にすると、国王は小さく口を開き、それからガックリと項垂れる。


(そう……ヘレナは間違いなく無事だ)


 ヘレナには誰よりも心強い守護神がついている。身の安全は元より、きっと幸せに暮らしているに違いない。それが分かっていたから、侯爵はヘレナが受けた仕打ちに憤りはすれど、そこまで心配をしていなかったのだ。


「何か……何とかしてヘレナを探し出す手立ては無いだろうか…………」


 悪夢に魘されるが如く、国王が呟く。そんな父親のことを、カルロスが険しい表情で睨みつけていた。
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