追放聖女はスパダリ執事に、とことん甘やかされてます!
「レイも知ってるでしょう? わたしは結界を張ることが出来るし、怪我をしても自分で治せるもの。護衛が無くても大丈夫よ。
それに、わたしの外出に一々付き合わせていたら、レイの大切な時間を奪っちゃうじゃない?
ただでさえ家のことは全部レイに任せっぱなしで心苦しいし、わたしが居ない間にそっちを片付けてもらった方が嬉しいなぁって……」


 そう言ってヘレナは、真剣な表情でレイを見上げる。昨夜からずっと温めておいた、レイの説得方法だ。
 初めて街に出掛けて以降、二人はもう何日間も似たようなやり取りを繰り返しているが、ヘレナはレイに一度も勝てたことがない。いつも何だかんだと言いくるめられ、結局は一緒に街へ出掛ける羽目に陥っているのだ。


「――――怪我をなさらないよう心配しているのは確かですが、お嬢様の力を侮っているわけではございません。寧ろ尊敬し、頼もしく思っております。
それに、家のこと、時間については、ご心配には及びません。お嬢様とのお出掛けは極短時間ですし、全て、私が好きでやっていることです」

「うぅ……」


 ヘレナが時間をかけて組み立てた言い分を、レイはものの一瞬で崩していく。口では勝てない――――そう分かっていたからこそ、ヘレナはレイに見つからずに、屋敷を抜け出そうと思っていた。結果、彼の方が一枚も二枚も上手だったわけだけれども。

「でっ……でも…………」

「――――――何より私は、お嬢様と片時も離れたくないのです」


 そう言ってヘレナをふわりと抱き上げながら、レイは微笑みを浮かべる。その瞬間、ヘレナの心臓が恐ろしい程に早鐘を打った。


< 36 / 97 >

この作品をシェア

pagetop