追放聖女はスパダリ執事に、とことん甘やかされてます!
「殿下」


 ヘレナがゆっくりとカルロスの前に躍り出る。騎士達は驚愕に目を見開いていた。この一ヶ月、ずっと探し求めていた人――自分たちの手で追放した聖女ヘレナが今、目の前に立っている。


「聖女様……」


 涙を流さんばかりに喜びながら、騎士達はヘレナに駆け寄った。カルロスはヘレナと騎士達を凝視しつつ、呆然とその場に立ち尽くしている。


「聖女様! 本当に、申し訳ございません! 私達は本当に、何と愚かなことを……」
「お怪我は? ご無事でいらっしゃいましたか?」
「一体何とお詫びを申し上げたら良いのか……。私達のせいで今、国が大変なことになっているのです! どうか、我々と一緒にお戻りいただけませんか?」


 口々に謝罪の言葉を述べる騎士達に、ヘレナは優しく微笑みかけた。実行犯ともいうべき彼等は、ずっと自分を責め続けていたのだろう。労いの言葉を掛けてやりつつ、ヘレナは小さく息を吐く。


「貴様が戻る必要はない」


 その時、そこに居た全員が目を見開き振り返った。カルロスだ。憎しみの炎が燃え滾った彼の瞳が、真っ直ぐにヘレナを睨みつけている。ヘレナは身を竦ませつつ、キッとカルロスを睨み返した。


「どうしてですか? 今、王都で人々が苦しんでいるとお聞きしました。わたしが戻らなければ、病人は増え続けるでしょう。それでも良いと、そう仰るのですか?」

「ああ、構わない。おまえのインチキ臭い力で救われる人間がいるなんて、俺には信じられないからな。
大体俺は、お前のせいで王太子の位を追われようとしているんだ! 本っ当に腹立たしい……要らない人間を追放して、何が悪い? 王族ならば、当然に持つ権利だろう! それを父上は『お前が悪い、お前のせいで国が大変なことになった』と責め立てたんだ!」


 カルロスはそう言ってヘレナへとにじり寄る。ヘレナは深呼吸をしながら、毅然とカルロスに立ち向かった。


「殿下がわたしの力を信じられないならば、それでも構いません! ですが、どうか今一度、わたしが国に帰ることを許可して下さい。わたしは祖国を救いたいのです!」

「ふざけるな! 何故俺がお前の帰国を許さねばならない? 二度と顔も見たくないと思ったお前が、この俺の前に現れること自体があり得ないのに!」


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