あの日の素直を追いかけて

第16話 桜が見たい…。じゃあ行こう!




 二日後、俺と由実は高速で車を走らせていた。

 東北道を一路北へ。宇都宮から日光方面へ、そしてさらに山奥へと走らせた。

 昨日はとくに何もせず一日ゆっくりと過ごした。やったことと言えば買い物をして、由実のものも増やすことにしたくらいだ。

 次に帰国するときには、遠慮なくうちに来ればいい。その時の用意を小さなケースを買って入れておいた。

『祐樹君、まだ桜って見られるところあるかな?』

 今日の外出は、買い物帰りに出た由実のそんな一言から始まった。

 我が家の前には小さな用水路があり、その両側に桜並木が続く。

 それに気付いた由実だったけれど、4月も中旬となり、花見の季節は残念ながら終わってしまっている。

 インターネットの情報で桜前線を見てみると、もう東北にまで上がってしまっており、これを追いかけるのは容易ではない。

 もちろんアメリカにも桜の木はたくさんある。しかしストレスで体を壊してしまった由実はそれを味わってくるだけの余裕は無かったようだった。

 そんなとき、ふと高校時代の勉強合宿で訪れた湯西川を思い出した。栃木県でありながら、雪深く春も遅い。4月中旬でようやく遅い春が来ると聞いていた。

 当時の宿がまだ健在だと知り、電話で問い合わせてみると、7部咲きほどのちょうど見頃だという。

 部屋も一部屋ということで、予約を入れることが出来た。

「由実、温泉と桜を見に泊まりにいこう」

「うん!」

 突然の話だったけれど、元から由実は旅支度だったし、国内旅館の1泊ならば俺も大きな荷物はいらない。

 二人の着替えを持って朝早くに家を出た。

 高速を出て山道を走る。この先にそんな場所があるのかと思うほどの山奥。

 湯西川温泉郷はもともと平家の落人部落という伝説がある程だ。人里離れた場所には違いない。

 それでも心身ともに疲れた由実を都会の喧噪から離してやるには、逆にこのくらいでちょうど良かったのかもしれない。

 先にチェックインを済ませ、鍵をもらったのは洋室の部屋だった。本当は和室の方が雰囲気も出たのかもしれないけれど、前日の飛び込み予約では贅沢も言えない。

 夕食までは時間もまだあるので、周囲を探索しようと洒落込んだ。

「本当に、ありがとう。なんか、ようやく春を感じたような気がするなぁ」

 集落も大きなものではない。コンビニすらないから、集落の食堂でお蕎麦をいただいて、昼食にした。

「このかまくらがいっぱいって何ですか?」

 由実が壁に掛かっている写真を見つけて聞いた。

 この湯西川では、真冬の2月頃に、かまくら祭りが行われる。

 川沿いに小さなかまくらが多数作られて、その一つ一つに明かりが灯されていく。今年もニュースで紹介されていた。

「今度、その時期に来てみたいな」

 食事を終えて河原を歩く。桜や菜の花を見て無邪気に笑う由実は、やはり昔の彼女の空気と変わらなかった。



< 16 / 49 >

この作品をシェア

pagetop