あの日の素直を追いかけて

第47話 もう婚約者なのだから…




 由実も俺も、お互いを待ち続けて10年。

 これ以上先延ばしをするのは無意味だ。

 必要なところは、これから一緒に歩きながら修正していけばいい。

「そろそろお夕飯だね。なにがいい?」

「……由実が食べたい」

「もぉ、祐樹君!?」

 セリフは怒っていながらも、嬉し恥ずかしで顔を赤らめる。

 俺は寝ころんだまま、もう一度由実の頭に手を伸ばして彼女の唇を吸った。唇がすぐに割れて、今日何度目かの吐息の交換。

「おなかが鳴ったら恥ずかしい。私のことはあとでゆっくり食べて……」

「本当に食べちゃうぞ?」

「祐樹君ならいいよ」

 もちろん冗談と分かっていてお互い吹き出してしまう。

 外出するにも疲れていたので、冷蔵庫の材料で手早く食事を用意する。こういうとき、かなり高度な料理まで電子レンジで終わってしまうこの国の冷食は重宝だ。

 洗濯物を洗濯機に仕掛けて、彼女が用意してくれたシャツとズボンに替える。これは俺が帰る直前まで使わせてくれるとのこと。明日は朝食を食べたら出発しなければならないから、汚れ物を処理する時間がないからだ。

「一緒にお片づけしてくれたから埃だらけだよね。狭いけど一緒にシャワー浴びようよ」

「いいのか?」

 入浴となると不思議だ。なんの躊躇もなく服を脱いで無防備な姿になってしまうのだから。

 さすがに大人二人が座って浸かれるれるほどの広さはない

 シャワーを使って、お互いを洗い流していく。女性としては本当は触られたくないかもしれない彼女の長い髪も任せてくれて、丁寧に頭の上から毛先まで手で解しながらシャワーを当てていった。

「祐樹君上手だね。日本に帰ったら、毎日お願いしよ……」

 突然、口をつぐんだ由実。

「大丈夫か? 疲れたんじゃないか……?」

「ううん。違うの。バカだよね私。ちゃんと待っていてくれるって言ってくれているのに、なんでこんなに不安になっちゃうんだろう」

 シャワーのお湯を浴びながら、彼女はギュッと背中に手を回し力を入れてくる。

「よく頑張って来たんだ。これからはずっと一緒だ」

 声では答えず、由実はキスをねだった。シャワーが上から注がれる中、雨の中でのキスシーンのようにも思えるけれど、なにも着ていないから二人の身体が直に触れあう。

 分かっている。もうお互いの身体は相手を求めている。でも、ここでこのままというわけにはいかない。

 そう、予想はしていたし、実際に由実の初めてを受け取るということも十分に想定していた。それでも大人の階段を一つずつ上り、みんなから認めてもらえるまで妊娠してしまうことの無いように準備はしてきた。

 ただし、出張荷物の限られたスペースの中では数はそれほど持ってこれないし、あの日以来、俺たちは時間が許せば愛情を確かめ合った。

「もう明日か明後日には次の生理が来ちゃう。今月はもうないかな。本当はね……、早く祐樹君との子供がほしい。でもそれだけじゃダメだって分かってる。ちゃんと落ち着いて、みんな準備が出来てからね。分かってるけど、今日は私のわがまま……」

 声から緊張していることがわかる。いくら大丈夫だと分かっていても、物理的に遮蔽をしていなければ、絶対と言うことはない。

 ただ何より俺たちはあの当時とは違う、もう大人同士の関係だ。

「由実だけが心配することじゃない。もし結果が伴えば俺も当事者として責任をとる。そのときは、ワイワイ一緒に暮らそうぜ」

「うん。祐樹君とだったら、みんなも許してくれるよ」

 昨日の会食でも、由実と俺であれば誰も異論はないと言われていた。

「ね……、お願い……」

 ここまで言われて、拒絶することは逆に彼女を傷つけてしまう。もう婚約はしたんだから、後先を細かく言われることもないだろう……。



 バスルームから出てきて思わずベッドの上に倒れこむ。

「なぁ、これでも第2ラウンドやるんか?」

 お互いに全てを求めあった長時間のバスタイムになってしまったことで、自然と首を横に振って笑う。

「また、日本に帰ってからだね。なんか待ちきれない」

「あの部屋はここより狭いからな?」

「じゃぁ、もっといいお部屋に引っ越そう?」

「まったく。あの辺で仕事探してるんだろ?」

「そうだった。やっぱ無理だぁ」

 結局、その夜はいつまでも寝付けずに、パジャマも脱ぎ捨てたまま、お互いの温もりを求め合って朝を迎えた。

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