課長に恋してます!

20 ホワイトデーの夜【上村課長】

 二泊三日分の荷物を新幹線の方にある預かり所に預けていた。
 総武快速に向かう、一瀬君とりゅうちゃんと別れた後、預けていたスーツケースを取りに向かった。

 歩きながら、一瀬君を想った。
 一ヶ月ぶりに会った一瀬君は耳が出る程、髪が短くなっていて、少々驚いた。
 そこまで髪の短い一瀬君は初めてだ。

 見慣れない髪型に、会社では見た事のない女性らしいデザインのベージュ色のコート姿にドキッとした。
 すぐに声を掛けるのがもったいなくて、一瀬君を少しだけ離れた所から眺めていた。

 一ヶ月ぶりの一瀬君を噛みしめていると、さらに思いがけない事があった。
 一瀬君の左手には子どもの手が握られていた。

 ぐずり出したりゅうちゃんをなだめている様子を見て、慌てて、近づいた。
 りゅうちゃんはやんちゃで、賢そうな子だった。

 真一(むすこ)の小さい時を思い出した。
 僕の話を一生懸命聞いてくれて可愛かった。
 くりっとした目元が、一瀬君に似てた。
 きっと、一瀬君と妹さんが似てるんだろう。

 予定とは少し違ったけど、りゅうちゃんを連れて皇居を歩くのは楽しかった。三人で洋食屋に入った時も、りゅうちゃんといろんな話をした。幼稚園のお友達の事とか、お母さんのお腹の中にいる赤ちゃんの事とか。

 一瀬君に出産予定日を聞くと、偶然にも娘の葵と時期が近かった。会った事はないけど、妹さんに親近感を覚えた。
 りゅうちゃんは少し、寂しそうだった。きっとお母さんを赤ちゃんに取られると思ってるんだろう。

 赤ちゃんはりゅうちゃんのお友だちになってくれるよって教えてあげると、少しだけ安心した顔をしてた。
 つないだりゅうちゃんの手も小さくて、あったかくて、握ってて心地よかった。

 今日は楽しかった。
 そう思って、別れた。

 だけど、預かり所に着いた時、本当は一瀬君と二人だけで過ごしたかったと思った。

 この一ヶ月、ふとした瞬間に浮かぶのは一瀬君の顔だった。
 自分は相応しくないと思いながらも、一瀬君の事を考えている時間が増えた。

 もう少しだけ一瀬君と一緒にいたい。
 二人だけで会いたい。

 コートのポケットからスマホを取り出した。
 断られるかもしれないが、それでもいいと思ってメールを出した。

 少し緊張しながら返信を待ってると、すぐにメールが来た。

 「 夕食のお誘いありがとうございます。
   東京に着いたら連絡します。

                  一瀬」

 メール画面を見て小さくガッツポーズをした。
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