課長に恋してます!
「何です?」

 こっちを見たまま一瀬君が聞いてくる。
 揺れる気持ちを誤魔化すように、手酌で飲んだ。

「何でもない」     

 ほんの冗談のつもりで言おうとした言葉に動揺しているとは、とても口に出せない。

「何です?」
「だから、何でもない」
「隠されると気になります。でもね、僕だっての後は何です?」
「さあ、なんだったかな」
「今度は忘れたふりですか?」
「本当に忘れたの」
「そうですか」  
 
 ふてくされたように言い捨て、彼女はカウンターに突っ伏した。    
 そんな彼女が可愛いから困る。
 
 一瀬君に翻弄されているなと思いながら、この時間がちょっと楽しい。

「一瀬君、お茶もらおうか」  

 突っ伏したままの一瀬君を見ると、頷くように少しだけ頭を動かした。  

 お茶を二つ、カウンター越しのマスターに注文した。
 マスターは僕と同世代ぐらいだ。紺色の割烹着が渋く決まっていて、気さくな人だ。

 一瀬君の様子を伺いながら、マスターと長野の話を少しだけした。

「お連れさん、大丈夫?」  
 
 カウンター越しにお茶を差し出しながら、マスターが言った。

「大丈夫ですよ。いつもの事です」と答えた時、一瀬君との仲が、急に親しいもののように感じられた。  

 例えば、一瀬君と同じ年だったら、僕たちは今どういう関係でいるんだろう、なんて。  

 この後、居酒屋を出た後も一緒にいる関係なんだろうか。  
 朝まで一緒にいる関係なんだろうか。  

 酔ってるな。こんな事を思うなんて。自分の想像に飽きれる。
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