課長に恋してます!

24 好きな人【上村課長】

「何か言って下さい」

 一瀬君の不安そうな声が響いた。
 大きな瞳を涙で濡らしたまま、一瀬君はこっちを見ていた。
 
 泣かせたくないのに、いつも泣かせてしまう。優柔不断な僕がいけないのはわかっている。
 一瀬君の気持ちに応えられないなら、会いに来てはいけなかったんだ。

 だが……。

 好きだから会いたくなる。
 会う度に一瀬君が好きだと感じる。

 しかし、僕は一瀬君に相応しい男ではない。
 
 年が離れ過ぎているし、僕には子どもがいるし、もうすぐ孫だって生まれる。
 僕と結婚すれば一瀬君の重荷になるだろう。
 
 恋人として交際するにしてもやはり先にあるのは結婚だ。一瀬君の年齢を考えると無駄な時間を使わせたくない。結婚できない関係なら、最初から付き合わない方がいいんだ。

 それに、一瀬君のご両親だって僕のような男は望んでいない。
 
 もうこれ以上は一瀬君を悩ませてはいけないな。ハッキリさせないと。

 短く息を吐いた。

「僕には好きな人がいる」

 見つめる大きな瞳が揺れた。

「好きな人って?」
「妻だ。亡くなってるけど、僕にはゆり子しかいないんだ」
「じゃあ、私の事は?」

 好きだよ。好きで堪らないよ。

 そう答えられたらどんなに楽なのだろう。

「ごめん」

 そう言って、一瀬君の部屋を後にした。
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