課長に恋してます!

8 さよなら、一瀬君 【上村課長】

「私じゃ、どうしてもダメですか?」

 しがみつくような、細い声で、一瀬君が言った。

 かあっと胸が熱くなる。
 一瀬君の言葉に心が揺れる。

 僕が一瀬君と同じ30歳だったら、ダメじゃないと言ったかもしれない。
 しかし、現実は僕は49歳で一瀬君は30歳。19歳も年上の僕はやっぱり一瀬君に相応しい男に思えない。

 来年、僕は50才で、一瀬君は31才。
 その十年後は60才で、彼女は41才。

 何度考えても年が違い過ぎる。
 その年の差を乗り越えて一瀬君と一緒にいる覚悟がない。

 好きだけでは乗り越えられない事だってある。この年になるとそういうのがわかってしまう。
 何よりも一瀬君を幸せにする自信が今の僕にはない。

 だから、やっぱり、ダメなんだ。

「すみません。困らせてしまいましたね」

 黙ったままでいると、一瀬君が言った。

「いや」
「でも。好きなんです」

 ストレートな言葉が胸に響く。

「課長は相応しくないって言ったけど、相応しいって何ですか? 私が課長と同じ年だったら、いいんですか?」

 聞き覚えのある言葉だった。
 思わず苦笑が浮かんだ。

「どうして笑うの?」

 大きな瞳が責めるようにこっちを見つめる。

「ごめん。昔を思い出したんだ」
「昔?」
「妻は10才年上だったんだよ」  

 僕を見つめる黒い瞳が大きく見開いた。
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