身代わり花嫁として嫁ぎましたが、どうやら旦那様も身代わりのようです?
「……先生! ありがとうございます。母を助けて頂いてありがとうございます」

「いいえ、主治医だった方が往診に来られなくなったと聞きまして。国王陛下のはからいで派遣されただけなのですが、お役に立てて良かったです。これからは少しずつ動く練習をしていきましょう。まずは口から水が飲めるようになってきましたからね、順調ですよ」


 確かにグレースの手紙に書かれていた内容と比べれば、今のお母様は少し回復しているように見える。以前のような生活が送れるようになるまで、これから毎日少しずつ訓練が必要だろうから、できれば私も近くでサポートしてあげたい。

 ユーリ様のことが心に引っかかっていないわけではない。

 馬車の中で何度も泣いた悲しい別れも、いつか時が経てば薄れてくれるはずだ。

 国王陛下からこうしてお医者様まで派遣して頂いているのに、王命で嫁いだシャゼル家との離縁を申し出るなんて伝えたら、お父様は何と言うだろう。それだけは不安が拭えない。


「リゼット様。お母様の今後の治療の件でお話がありますので、場所を変えられますか?」

「あ、はい。分かりました。グレース、どこかお部屋はあるかしら」

「お部屋はもう、他には使わせて頂けませんので……屋上はいかがでしょう?」


 お母様の看病をグレースに頼んでしまったことで、彼女にもこの屋敷で肩身の狭い思いをさせてしまっているのかもしれない。お医者様とお話するためですら、別の部屋を使わせてもらえないなんて。


「グレース、分かったわ。ごめんなさいね。先生、本当に申し訳ありません。屋上に簡単な椅子とテーブルがありますのでそちらでもよろしいですか?」

「もちろんですよ、参りましょう」


 先生はお母様の部屋の扉を開き、まるで貴族のような振る舞いで丁寧に私を屋上までエスコートした。


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