身代わり花嫁として嫁ぎましたが、どうやら旦那様も身代わりのようです?
「ヴァレリー伯爵夫人に毒を盛ったのが、主治医とソフィたちだと? それになぜ、アイツは探偵ごっこをしてるんだ。このロンベルクを放っておいて一体何を! もしかしてウォルターは、今までずっとリカルドと連絡を取っていたのか?」


 ウォルターが立ち上がり、深々とお辞儀をして謝罪の言葉を口にした。なんだよ、お前もグルだったのか。リカルドだけじゃなく、お前まで俺を身代わりに仕立て上げたんだな。背中のケガがなければ一発ぶん殴りたいところだ。


「リカルド様はユーリ様のことを心からご心配なさっているのです。辺境伯にふさわしいのはユーリ様であると、ずっと仰っていました」

「それは俺も何度も聞いたよ。でも仕方ないだろう? 辺境伯に任命されたのは俺じゃない、リカルドなんだ。アイツには逃げるなと何度も言ったのに」

「では、もしユーリ様が辺境伯に任命されていたらお受けしたのですか?」

「……何が聞きたい?」


 謝罪の姿勢のまま背中を倒したウォルターの丸メガネの隙間から、鋭い視線が俺に刺さる。

 沈黙に耐えられず、俺はウォルターに答えた。


「この数か月、リカルドの身代わりをやってみて、この土地にも愛着がわいた。ロンベルクの森も街もとても美しい。二度と魔獣が現れないように、この場所を守っていきたいと思った。辺境伯という地位に関わらず、ずっとここで暮らしたいとは思う」

「ユーリ様。返事になっておりません」

「……そうだな。じゃあハッキリ言おう。リカルドなんかにこのロンベルクを任せられるものか! 俺に辺境伯を任せてもらえるよう、国王陛下に直談判する。だから俺も王都に連れて行ってくれ!」


 俺の言葉を待ってましたとばかりに満面の笑みで聞いていたウォルターは一度すっと背中を伸ばし、改めて丁寧にお辞儀をした。まるで俺が本当にウォルターの主人であるかのように。


「承知いたしました。捕えているソフィ・ヴァレリーを王都に連行するように、国王陛下からも連絡を頂いております。ユーリ様も同行をお願いします。ケガのこと、くれぐれも無理をなされませんように」

「分かった、ありがとう。ちなみにウォルターはいつからリカルドとグルだったんだ?」

「……ええっ……と、リカルド様の結婚式の時からでございますかね」

「初めからじゃないか! あの日、リカルドが逃げるのを手伝ったのか? どうやって?」

「そうですね、リカルド様お手製の薬なども使いながら……それではごゆっくりお休みください!」


 ウォルターは俺の質問にハッキリと答えないまま、風のように部屋から出て行った。リカルドの薬って何だよ。

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