身代わり花嫁として嫁ぎましたが、どうやら旦那様も身代わりのようです?
 その後もシビルはドルンにある自宅からアルヴィラとドルンスミレを定期的に取り寄せる。アルヴィラを飲んだソフィは銀髪で過ごすし、一緒に届いたドルンスミレの毒はお母様の点滴へ。

 ロンベルク辺境伯との縁談の話があがり、私を伯爵家から追い出した後、残る彼らの目的はソフィがヴァレリー伯爵家を継ぐことのみとなった。

 このタイミングが一番危なかった。お父様の目をも盗んで、お母様の殺害に及んでいたかもしれない。そうすれば、今は愛妾の立場であるシビルも伯爵夫人となれる。
 ロンベルクに出発する前に私がグレースに付きっ切りの看病を頼んだことで、何とかその危機は免れた。


 彼女たちの計画が狂ったのは、ロンベルクの森に再度現れた魔獣の影響だった。森へ入ることが禁止され、アルヴィラもドルンスミレも採取できなくなってしまい、ほどなくしてヴァレリー伯爵家へのアルヴィラとドルンスミレの納品が途絶える。
 ソフィは銀髪に染めることができなくなり、主治医はお母様が目を覚ますことを恐れた。事件発覚を恐れて主治医は逃げ、それに気付いたシビルとソフィも逃走を図った。

 お父様から見れば、急に主治医と愛妾、そして最愛の娘が消えたことになる。

 大切な人が突然目の前からいなくなったお父様はパニックとなり、お金をつぎ込んで自警団を山ほど雇って調査させている。


◇◇◇◇◇


 リカルド様から真相を聞いた時は、あまりのことに言葉も出なかった。

 ロンベルクへ嫁ぐようにお父様に言われた時、もしもグレースにお母様の看病を頼んでいなかったら……? 今頃お母様の命はなかったかもしれない。想像しただけで体がガタガタと震えて止まらなくなった。


「リゼット、さあどうする? この件は国王陛下にも報告してある。ウォルターに頼んで、ソフィを王城に連れてくるように手配済みだ。彼らの裁きの場に、君も立ち会う?」

「……もちろん、立ち合います」

「ヴァレリー伯爵もその場に呼んでいる。君を虐げた父親と再び顔を合わせることになるけど大丈夫?」

「はい……大丈夫です。お父様もソフィも、今は私の家族ですもの。きちんと見届けます」


 そんな会話を経て、私は今日を迎えた。

 いよいよ国王陛下の裁きが始まる。
 私とリカルド様は案内人に従って、国王陛下との謁見の間に向かった。
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